「ゴリアテ」─イスラエルで加速するレイシズム

2013/10/4(Fri)
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ネタニヤフ政権下のイスラエル社会の変化について詳しく紹介するマックス・ブルーメンソールの新著Goliath: Life and Loathing in Greater Israel (『ゴリアテ-憎しみの国 大イスラエルでの生活』)が刊行されました。

ベンヤミン・ネタニヤフが二度目となるイスラエル首相の座に就任したのは、イスラエル軍がガザ地区で行った大規模な攻撃に対する国際的な批判が続いている2009年3月でした。第二次ネタニヤフ内閣は、労働党、カディマ党との大連立を目指しました。しかしカディマとの協議は成立せず、極右と言われる「イスラエル我が家」など右派4党に労働党を加えた連立内閣となりました。当時カディマ党の党首だったツィピ・リヴニは「イスラエル史上、最も右翼的な政権」と評しました。ブルーメンソールはイスラエル国会の全120議席中、75議席が右派の議員で占められていると述べています。

ブルメンソールはネタニヤフ政権下のイスラエル社会について、「占領がイスラエル内に戻ってきた」と表現しています。西岸地区の過激な入植者たちがイスラエル内に戻ってデモや占拠を行い、イスラエル内に居住するアラブ系住民やアフリカからの移民とのあいだに大きな摩擦が生じているのです。イスラエルの新聞ハアレツ紙も アフリカ系移民に対する差別が加速していると伝えています。これらの移民は主にエラトリア、スーダンから来た非ユダヤ系の移民です。現在54000人ほどいるとされていますが、右派系の議員たちが「ユダヤ人の国」としてのイスラエルに対する脅威になると主張しています。さらにネゲブ砂漠のベドウィン族を強制的に移住させる計画(Prawer Plan)が提案されるなど、第二次ネタニヤフ政権ではパレスチナ人だけではなく非ユダヤ系住民に対する排斥運動が高まっています。(2013年12月13日、Prawer Planは見送りとなりました)著名なラビたちは、非ユダヤ系住民に住居を貸すことを禁ずる呼びかけ を行いました。

こうしたレイシズムの激化についてブルーメンソールは、イスラエルのユダヤ人の間に存在する格差も要因だとしています。 その多くがユダヤ人社会で低い階層にいるロシア系移民やミズラヒムと呼ばれるイスラム圏出身層が、アシュケナージと呼ばれるヨーロッパ系の富裕層に対して「イスラエル性」(Israeliness)を示すために暴力的なレイシズムを表出させるのだという分析です。

ネタニヤフが党首を務めるリクード党は、聖書に基づく「約束の地」がイスラエルの領土だとする大イスラエル主義を掲げる政党です。ネタニヤフがより重視するのは、パレスチナ人への大規模な軍事攻撃ではなく、イスラエル政府の支配権の及ぶ地域から非ユダヤ系住民を追放する政策だとブルメンソールは言います。このような政策を支持する政治家をイスラエルでは「移送主義者」(transferist)と呼ぶそうです。ネタニヤフが占領地での入植地の拡大をさかんに行っているのもその1つと言えるでしょう。

ブルメンソールは、米国の一流大学を卒業し、ミット・ロムニーとボストン・コンサルティング社で同僚だった経歴をもつネタニヤフを「米国にイスラエルの立場を売り込むセールスマン」と呼びました。対外的にはイスラエルの広報活動を精力的に行い、国内では非ユダヤ人を追放あるいはゲットーに押し込める政策を推し進めることで「ヨルダン川から地中海まで」を支配に収めるのがネタニヤフの計画であることは明白だとブルメンソールは言います。ネタニヤフの願いは「イスラエルの王」(The King of Israel)として「イスラエル史上初の純粋な右派首相」の地位を確実なものにすることだとブルーメンソールは分析します。(桜井)

*マックス・ブルーメンソール(Max Blumenthal):Republican Gomorrah: Inside the Movement that Shattered the Party(『共和党のゴモラ 党を破壊した運動の内幕』)の著者。

Credits: 

字幕翻訳:斉木裕明 校正:桜井まり子 全体監修:中野真紀子