コーネル・ウェスト オバマの偽善を批判―トレイボン・マーティン射殺裁判への発言で

2013/7/22(Mon)
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マーティン・ルーサー・キング師の有名な演説『私には夢がある』を生んだワシントン大行進から50年。人種差別はなくなったのでしょうか?そんな問いに大きな疑問符をつきつけたのが、トレイボン・マーティン射殺事件でした。ご近所を歩いていた見かけないティーンエイジャーに目をつけた「自警団」の男ジョージ・ジマーマンが後をつけ、もみあいの末、射殺し正当防衛を主張したこの事件。ジマーマンがトレイボンをターゲットにしたのは、黒人だったから?裁判で出された判決は、無罪でした。これが正義と言えるのか?全米各地で抗議のデモが繰り広げられました。

事件が起きた頃に、「もし私に息子がいたら、トレイボン・マーティンさんは私の息子だったかもしれない」と発言したオバマ大統領。判決が出た時には、もうひとふんばりとばかり「トレイボン・マーティンは30数年前の私だったかもしれない」と発言し、アメリカ社会に根深く浸透した人種差別に注意を喚起しました。さらにこの事件を公民権法違反で裁けないか司法省に検討させると表明しましたが、どこかおよび腰です。

そんな態度にふんまんやるかたないのが、コーネル・ウェストです。オバマの発言は、制度にしみこんだ人種差別とい不正をモラルの問題にすりかえているようにみえるからです。警察が黒人やラティーノの若者に目をつけプライバシーを侵害し不愉快な思いをさせる路上尋問、同様の罪でもマイノリティの逮捕を重視しマイノリティにより重い刑罰を科している司法刑事制度。高い失業率と貧困。みえない所で人種差別が解消していないことは、繰り返し語られてきたことです。「人種問題を重視するなら、なぜそのような問題に取り組まないのか。大統領の仕事だろう」というわけです。

ウェストの追及は、キング師が求めた夢の根源にまでいたります。人種の問題はもちろん、貧困や反戦にも熱心にとりくんだキング師。いま生きていたら、ドローン攻撃や格差・ひろがる貧困に黙ってはいないでしょう。オバマが「トレイボン・マーティンは私だ」と言うのなら、同じように「何の罪もなく命を奪われていくドローン攻撃で殺された子供たちは私だ」という想像力をもつべきだと、ウェストは主張します。キング師が求めたのは、公正で自由、平和な社会だったのですから。
5年前の大統領初就任にいたるまで強力にオバマ候補を支持したウェストですが、就任後は厳しい批判を続けています。ついには「オバマはウォール街の座敷犬だ」と発言し、それ以来、ホワイトハウスとの関係は切れたままです。しかし、辛口の正当な批判ほど大きな支援はありません。黒人指導者層の多くはオバマ応援にかまけ批判を忘れてしまっています(裏ではいろいろ言うけれど)。ウェスト流の直撃発言はだからこそ、いま貴重です。(大竹秀子)

*コーネル・ウェスト(Cornel West): アメリカの哲学者。現在は、ユニオン神学校教授。以前は、ハーバード大学とプリンストン大学の教授を歴任。民主主義や人種問題を論じた著書多数。タビス・スマイリーと共に『スマイリー&ウェスト』の司会者。社会活動家としても知られる。

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字幕翻訳:大竹秀子/ 全体監修:中野真紀子