バングラデシュの工場火災跡からウォルマート・ブランドの服が
2012年11月24日、バングラデシュで起きた衣料品工場火災は112名の死者を出す大惨事となりました。労働者の逃亡を防ぐため出口にはあらかじめ鍵がかかっていたとみられ、死者のほとんどは工場内に閉じ込められて焼死、7階から飛び降りた人も多くいました。避難用の外階段はありませんでした。バングラデシュでは過去5年間、衣料品工場での火災による死者が700名を超えていると言われます。バ ングラデシュの縫製労働者の賃金は月4000円程 度で世界でも最低水準となっています。
労働活動家カルポナ・アクターは工場の焼け跡を訪れ、焼け焦げた衣類の中から、ウォルマートの自社ブランド「フェイディド・グローリー」のタグが付いた服を見つけました。ウォルマート社は当初、タズリーン・ファッションズとの契約はすでに解除されていたとしましたが、後に、納入業者が許可なく下請けに出していたとしました。
多くの人権団体が、途上国の人々を非人道的な労働環境で働かせる先進国の大企業を非難しました。一方では、契約工場の劣悪な労働環境はブランド・イメージを傷つけるので企業も以前より人権に配慮しているとしたうえで、現実的には下請け業者の規制は難しいという報道も多くありました。利潤追求の一環として、企業モラルの強化が必要だというものです。
欧米企業の製造部門を低賃金労働で担ってきたアジアの途上国内でも格差が広がり、中国の企業がバングラデシュに生産拠点を移す動きも見られるようになっています。米国の失業率は2013年1月時点でも依然として高水準が続いており、中間層の資産はここ10年で4割減、上位1%の純資産額は中間層の288倍という調査もありました。
先進国でも大企業のグローバル化の被害者は大多数の庶民なのです。バングラデシュの工場火災が象徴するのは、大企業が少数特権層の利益を守るために「自由貿易」を掲げて君臨するグローバル企業統治ではないでしょうか。(桜井まり子)
*カルポナ・アクター(Kalpona Akter):バングラデシュ労働連帯センター(the Bangladesh Center for Worker Solidarity)のオルガナイザー。
*スコット・ノバ(Scott Nova):労働者権利組合(Worker Rights Consortium)代表。世界各地の工場の労働環境を調査している。
字幕翻訳:natsu 校正:永井愛弓 Web作成:桜井まり子