ポール・クルーグマン「さっさと不況を終わらせろ」 (1)いまは赤字削減より財政支出を
大恐慌以来の不況と言われる現在の経済状況の中、米国やヨーロッパでは、財政赤字や政府債務の大きさばかりが大きく取り上げられ、財政赤字削減の大義のもと、多くの国で緊縮政策が採られています。ノーベル賞受賞の経済学者ポール・クルーグマンは、新著『さっさと不況を終わらせろ』で、低迷する経済状況での、財政赤字に対する過剰な反応は経済回復を妨げると論じています。
不況時に緊縮政策をとることは経済学の基本に反するとクルーグマンは言います。不況時には「政府が支出を増やし需要を創り出しすべきであり、財政赤字の心配は経済が上向いた時にすればよい」と。その逆の政策で財政赤字に過剰に反応しているのが米国とユーロ圏です。米国では昨年共和党が債務限度額の上限引き上げを盾にとり、より大きな歳出削減を要求して連邦政府を債務不履行寸前まで追い詰めました。そしてユーロ圏では、ギリシャやスペインなど財政危機に陥っている国に対して厳しい緊縮政策を強行しました。20年来低迷する経済を尻目に消費税増税を強行した日本政府の政策なども、その一連の流れと考えてよいでしょう。 クルーグマンは特にヨーロッパで行われている緊縮策を、景気後退中に政府の支出を削るとどうなるかという「壮大な人体実験」と呼び危機感を募らせています。
またオキュパイ運動にも触れ、この運動が2011年の夏に「赤字と負債一辺倒だった」世論の意識を、「不平等、不公平、雇用問題」へと方向転換させた。この貢献は大きいといいます。これらが真の緊急問題だからです。(関房江)
*ポール・クルーグマン(Paul Krugman) ノーベル受賞の経済学者、ニューヨーク・タイムズ紙の論説コラムニスト、プリンストン大学教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのセンテラリー教授。『世界大不況からの脱出 - なぜ恐慌型経済は広がったのか』など著書多数。 新著は『さっさと不況を終わらせろ』
字幕:関房江/全体監修:中野真紀子