TORプロジェクトのジェイコブ・アッペルボーム 歯止めのない捜査手法に懸念 

2012/4/20(Fri)
Video No.: 
3
10分

ジェイコブ・アッペルボームはTORプロジェクトの中心メンバー。すべての人が制約を受けずにインターネットを閲覧できる権利、自由に発言できる権利を保証するための匿名化ツール「TOR」の開発と推進にかかわってきたハクティビストです。彼は2010年のHope(Hackers on the Planet Earth)大会でウィキリークスのジュリアン・アサンジに代わって基調講演を行って以来、米捜査当局にマークされて度重なる取り調べを受けたり通信情報を監視されたりしています。「炭坑のカナリア」の役を買って出たというアッペルバームのgmailアカウントに関しては、全メールのメタ情報を引き渡すようFBIがグーグルに対してNational Security Letter (国家安全保障書簡)を出したらしいと言われています。

最近多用されているらしいNSLは、FBI捜査官の一存で令状もなしに情報の提出を求めることができ、受け取った者はそのことについて口外することを禁じられ、違反した場合には5年以下の刑罰が科せられます。捜査の標的となる当人ではなく、ネットサービスの提供者に通知されるのが問題で、情報を渡せという命令があったことを本人に知らせること自体が違法行為になります。これでは裁判で差し止めを要求しようにも、根拠となる事実を示すことさえできません。このような状態だからこそ、ネット上の行動を匿名化することは重要な保身手段になります。

日本の警察もお手上げのTOR。ついにTOR経由の通信の遮断が有効だという有識者の進言を盾にプロバイダ業界に「自主的な取り組み」を促したとの報道で、ますますひんしゅくを買っています。まるでTORが犯罪の温床のような報道の仕方にも大いに疑問があり、ネットで匿名を保つことが当たり前の行為であることを忘れているように見受けられます。 ウィリアム・ビニー が懸念するような国家による大規模な国民監視が進んでいるのならなおさらのこと、それに対抗する手段としてTORのような匿名化プロジェクトはますます重要です。(中野真紀子)

Tor公式サイト(言語自動選択) 

*ジェイコブ・アッペルバーム(Jacob Appelbaum)ウィキリークスにかかわるハクティビストの一人で、ネット通信の匿名性を確保するネットワークTORプロジェクトを開発、推進しているコンピューター・セキュリティの専門家。 

Credits: 

字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子