ジョージア州の刑務所で大ストライキ
携帯電話を使って連帯し、権力者の人権抑圧に対し非暴力の闘いを挑む。しかも、指導者はいない―エジプト革命? いえいえ、2010年12月ジョージア州で起きた米国史上最大の刑務所ストライキの話です。
ジョージア州では刑務所で課される労働には、支払いがなされません。全国的にみても囚人の労働はほとんどが無給。1時間の労働にせいぜい50セントが支払われればよいというのが、水準のようです。そのため無事刑期を終えても釈放される時、ほとんど無一文で社会に戻るケースが大半を占めます。しかも、ジョージア州の場合、教育の機会も運動の機会も無く栄養状態は悪く獄房は超満員。しかも、看守はヒマにまかせて気まぐれに暴力をふるい、囚人はひっきりなしの暴力におびえなければなりません。刑務所は受刑者を更正し社会に貢献できる人物に育てるための施設ではなく、強制労働を求めるだけの施設になりさがっているのです。
なんとかしなくては、そう思ったジョージア州の囚人が力を合わせるために使った道具が、携帯電話でした。米国でも囚人が携帯電話をもつことは規則で禁じられています。そこにつけこんで、看守がしっかり商売し、時には市販の値段の10倍以上の値段で囚人たちに携帯電話を売りつけています。隠しもった携帯電話のテキストメッセージのやりとりで、囚人たちは非暴力のストライキを行おうと決めました。実施日は2010年12月9日。この日は起床せずと仕事に出るのを拒否しようと申し合わせたのです。獄房からニューヨークタイムズに電話して、ストの開始を告げた囚人もいました。ふだんならわだかまりのある人種の垣根を超え、ラティーノも先住民も黒人も白人も皆が協力しました。いつもなら熾烈なギャングの組どうしの縄張り争いもこの時ばかりは忘れられました。
指導者がいない自然発生的にもりあがったストライキだったため、参加者全員を代表できる指導者がいませんでした。そのため、刑務所との交渉の受け皿になったのは、黒人組織NAACPやネイション・オブ・イスラムなどを含めた「刑務所での権利を尊重する連合(Concerned Coalition to Respect Prisoners’ Rights)」でした。この組織を創設したのが、元ブラックパンサー党のエレイン・ブラウンで、ブラウンはメディアへの広報係も任じました。米国の刑務所人口は200万人を超え、世界最大数に達しています。2003年に出された米司法省の統計によると2001年に生まれた黒人の男性の3割以上が、人生のある時期を州あるいは連邦刑務所で過ごすと推定されています。
ストライキ自体は、1週間弱でなし崩し的に終焉しました。刑務所問題はあいかわらず米国の大きな問題ですが、流血騒ぎにならず思いがけない連帯が生まれたことに囚人や支援者たちは、「次」に向け大きな自信をえたようです。(大竹)
参照リンク: エレイン・ブラウン;ブラック・パンサーを語る
*エレイン・ブラウン(Elaine Brown):元ブラック・パンサー党のメンバー。一時は、議長も務めた。著述家でシンガーでもある。「刑務所での権利を尊重する連合」(Concerned Coalition to Respect Prisoners’ Rights)などの団体を創設するなど、長年にわたり囚人や刑務所での権利を擁護する活動に深く関わっている。
字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子・桜井まり子