「ナイロビの蜂」原作者ジョン・ル・カレ特別インタビュー: グローバリゼーション、イラク戦争、情報操作

2010/10/11(Mon)
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48分
英国の諜報部員を描いた小説といえば、数字3桁のコードネームを持つあの人物を主人公にした物語が思い浮かびますが、元英諜報部員でスパイ作家のジョン・ル・カレ(本名デビッド・コーンウェル)の冷戦時代のスパイ小説は、それとは少々趣が異なるようです。冷戦後はグローバル化や格差の問題を取り上げ、多国籍企業の暴走とそれを助ける諜報機関を描いたル・カレは、映画「ナイロビの蜂」の原作者でもあります。80歳、「もう公の場で話すのはこれが最後」と前置きしながら、貴重なインタビュ-が始まります。

最新作Our Kind of Man(「こっちに寝返る奴」)のテーマは、一見クリーンな銀行業界による、裏社会と密接に連携したマネーロンダリング(資金洗浄)です。インタビュー中に一部朗読を披露するル・カレは、「資金洗浄は空想ではなく、脱税や犯罪がらみや麻薬取引の違法な利益をいかにして表の世界に戻すか」だといいます。

かつての英諜報機関は、真実を権力側に伝えることを使命とするエリート集団だったと、ル・カレは自身の経験をもとに語ります。しかしイラク戦争開戦時には、英諜報機関みずからが作成した偽造文書が開戦のきっかけとなってしまったと嘆きます。「理由を偽って国を戦争に導くのは政治家として最大の罪」と政府への糾弾を忘れないル・カレ。自分の立場は「預言者ではなく1人の怒れる市民」としながら、「(戦争の)犠牲者は決して忘れません。しかし、勝者はあっという間に忘れてしまうのです」と本質を突きます。

また、諜報機関やマスコミ、政治評論家によって高度な情報操作が行われることの危険性についても語ります。そうなると「一般市民はかやの外」におかれるとの指摘は、万国共通でしょう。「とても危惧されるのは真剣な議論がないことが新たな熱狂を呼び起こすことです」との言葉に、形骸化した民主主義が一歩間違うと、再び戦争への道を歩みだす恐れがあるということを、今一度思い起こさせられます。

さらに、「私のいう企業の力とは企業のためと称して人間の良識をマヒさせる力です。自分の隣人には絶対しないようなことを企業のためならやってしまう」とは、かの国の発電所の事故とその対応を考えるにあたっても、大変示唆に富む指摘です。

インタビューには、その一風変わったペンネームの由来に始まり、ファンなら聞いてみたいエピソードも満載ですが、何よりル・カレいわく、小説は「面白くなければ意味がない。メッセージは自然に伝わればよい」。凄腕ジャーナリスト顔負けの内容に、あふれ出す作家魂。ル・カレの言葉は日本や世界の社会運動にもあらたな視点をあたえてくれています。(田中泉)

*ジョン・ル・カレ(John le Carré)英国のスパイ小説作家。本名デイヴィッド・コーンウェル。1950年代後半から60年代初頭まで英国の諜報機関MI5、MI6に勤務した経験を活かし冷戦を題材とした作品を発表。代表作『寒い国から帰ってきたスパイ』『ナイロビの蜂』ほか。番組中、イラク戦争を米国と始めたブレア元英国首相を厳しく批判している。

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字幕翻訳:田中泉/校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子/動画ページ:丸山紀一朗