数百万人を飢えさせ責任を取らないウォール街の食糧バブル
2005年から2008年にかけて世界の穀物市場が高騰し、貧しい国々では食糧が不足して2008年には各地で飢餓暴動が起こりました。世界の飢餓人口は2億5千万人増加して10億人に達したと推測されています。価格の高騰は自然災害の多発だとかバイオ燃料ブームのためとか、当時さまざまな説明がなされましたが、どうやら決定的だったのは先物市場への巨額の金融投機だったようです。膨大な現金を抱えて運用先をあさっていた投資銀行が、穀物の商品先物市場をマネーゲームの対象として撹乱し、市場メカニズムをめちゃくちゃにしてしまったのです。
先鞭を切ったのは、またもゴールドマン・サックスのようです。1991年に商品インデックス・ファンドを考案し、巨大な投機資金を集めて市場に介入しました。商品先物市場の本来の目的は価格の安定化です。売り手と買い手が将来のある時点であらかじめ定めた価格で取引をする約束を交わすことによって、極端な価格変動の影響を緩和することができます。ここにはまた、毎日の取引価格の変動を利用して利ざやを稼ぐことを目的とする投機家も参加して、市場を円滑化してきました。彼らは実際の商品は必要としないので、常に「売り」と「買い」をセットにして注文し、最終的には手元に「売り」も「買い」も残さない、ゼロポジションをとります。
でもゴールドマンが思いついた投資は、こうした伝統的な市場メカニズムを全く無視するものでした。手元にある巨額の資金を有利に投資すことしか考えず、「買い注文」だけを出し続けてどんどん買いあさり、先物市場に前代未聞の「買い越し」を作り、人工的に需要を急増させて小麦価格を上昇させたのです。しかも、買い注文には本当に全額を払い込む必要はありません。数パーセントの証拠金さえ払えば済むので、ファンドで預かった金の残りは国債に投資して、それを担保に金を借りて何倍にも膨らませることができます。
こうした身勝手な投資で先物市場を荒らしたため食糧価格は8割も上昇し、世界中で暴動が起こり、難民が増えました。世界人口の大半は収入の半分上を食費に使っているため、食糧が8割も値上がりすれば十分な食事が取れなくなってしまいます。こうした人々の苦しみをよそに金儲けに明け暮れた投資銀行の不道徳なふるまいは、数式に基づく虚構のマネーゲームに夢中になり現実世界を忘却してしまった結果だと、カウフマンは言います。(中野)
フレデリック・カウフマン(Frederick Kaufman) 『ハーパーズ・マガジン』の補助編集員。2008年の食糧危機へのゴールド・マンサックスの関わりを調査して、The Food Bubble: How Wall Street Starved Millions and Got Away With It (食糧バブル:数百万人を飢えさせ責任を取らぬウォール街)という記事を載せた。
字幕翻訳:永井愛里/校正:関房江
全体監修:中野真紀子