ジョン・ピルジャー「大メディアの役割は人々の目をふさぐことだ」

2010/6/29(Tue)
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今年6月、アフガニスタン駐留軍を率いるスタンリー・マクリスタル司令官が、ローリング・ストーン誌に掲載された記事がもとでオバマ大統領に解任されました。側近たちと一緒になって大統領や政府要人らを笑いものにしたことが暴露されたからです。バイデン大統領は「むかつく」、ジョーンズ国家安全保障担当補佐官は「道化」、ホルブルック特別代表は「手負いの獣」という罵倒の言葉はすっかり有名になりました。

マスコミは現地司令官たちをかばい、記事を書いたマイケル・へイスティングス記者に激しい批判を浴びせました。「お国に尽くす軍人」が酒の席で口走った失言を暴き立てて、ジャーナリズムの"基本"を破り信頼関係をぶちこわしたと、袋叩きの様相です。しかし独立ジャーナリストのジョン・ピルジャーは、ヘイスティングス記者は本来ジャーナリストがやるべき仕事をしただけだと切って捨てます。

ピルジャーの新作映画のタイトル『見えない戦争』とは、イラクやアフガニスタンで見られるような民間人に対する戦争のことです。この戦争が私たちの目に見えないのは、軍にぴったり寄り添うマスコミが、都合の悪い情報を伝えないためです。権力と馴れ合い、その手先となった主流メディアの役割は、いまや事実を隠すことになっているのです。

それゆえ、この煙幕を破って真実を伝えようとする者は、ヘイスティング記者のようにバッシングを受けます。イラクでは、近代のどの戦争よりも多くのジャーナリストが死亡しています。ウィキリークスの創始者は米当局の追跡を逃れて地下に潜りました。真実を伝えようとするジャーナリストが標的にされているのだとピルジャーは言います。

これはとても危険です。メディアによって目隠しをされた米国の国民は、イラクに対する誤った戦争に突き進みました。その結果、イラクの文化や社会構造に取り返しのつかない打撃を与える一方、自国の財政や経済も破綻させてしまいました。特に金融バブルの破綻以降は、経済がとてつもなく荒廃し、庶民の生活は追い込まれています。でも政府は大手金融機関の救済には惜しみなく税金を注ぎながら、仕事や住居を失った人々のための改革はおざなりです。中間選挙を控え、ますます盛り上が右翼ティーパーティ運動の背後には、こうした大衆の怒りと不満の鬱積があるのですが、メディアはこれを伝えていないとピルジャーは警告します。(中野)

*ジョン・ピルジャー(John Pilger)ロンドン在住のジャーナリスト、ドキュメンタリー映画作家。50本以上のドキュメンタ リーを制作し、戦争報道に対して英国でジャーナリストに贈られる最高の栄誉「ジャーナリスト・オブ・ザ・イヤー」を2度受賞、記録映画に対しては、フラン スの国境なき記者団賞、米国のエミー賞、英国のリチャード・ディンブルビー賞などを受賞している。ベトナム、カンボジア、エジプト、インド、バングラ ディッシュ、ビアフラなど世界各地の戦地に赴任した。著書には『世界の新しい支配者たち』(岩波書店)など多数の著書がある。現在は米国で「メディアとの戦い」についての新作ドキュメンタリー映画The War You Don’t See(『見えない戦争』)を制作中

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字幕翻訳:田中恵子
校正・全体監修:中野真紀子・付天斉