メキシコの汚い麻薬戦争

2009/8/11(Tue)
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14分

米国にはびこる麻薬犯罪の元凶とされるメキシコの麻薬カルテル。麻薬カルテル撲滅に乗り出したメキシコ政府に、米国が毎年5億ドル近い犯罪対策支援をしています。しかし、メキシコ政府の犯罪対策は人権侵害がはなはだしく、それを理由に米国からの支援も一部が凍結されました。メキシコを訪問したオバマ大統領はカルデロン大統領の麻薬戦争への対応を称賛しましたが、メキシコの麻薬戦争の影響を取材してきたチャールズ・バウデン記者は、それはでたらめだと言います。

米国からの支援は軍事中心で、メキシコ軍の力が強まり、政府に浸透して市民を攻撃しています。軍は行く先々で住民をおびえさせ、やりたい放題に武力を行使しており、2006年末に麻薬戦争が始まって以来、1万2千人もの死者が出ていますが、そのうち兵士はわずか72人。バウデン記者は、これは軍によるクーデターに等しいと言います。

社会全体の軍事化は経済を崩壊させ、撲滅どころかむしろ麻薬への依存度を高める結果になっているようです。麻薬によるメキシコの外貨収入は年間300億~400億ドルですが、出稼ぎ労働者からの故郷への送金は正規のものに限れば200億~250億ドル程度です。もはや麻薬なくして経済が立ち行かない状態で、麻薬産業は社会の隅々に根をおろしており、力づくで根絶することはできません。

さてメキシコ社会の軍事化に一役買っているのが武器密輸です。規制が緩い米国で合法的に入手した銃が簡単に国境を越えて入ってきます。密輸を防ぐのは困難ですが、かといって米国で銃規制を強化するというのは当面の選択肢にはならないでしょう。協力な圧力団体が銃規制を許さないからです。しかし、その銃で殺されていくのは犯罪者や軍人ではなく、メキシコの貧しい民衆です。

もっと根本的には米国がニクソン政権の時代から麻薬を非合法にしてきたことが、根本的な失策のようです。違法であることが麻薬の価値を高め、大規模な密輸ビジネスを生み出しているのですから。麻薬犯罪をなくする最善の手段は麻薬の合法化だと、バウデン記者は言います。(中野)

*チャールズ・バウデン(Charles Bowden)
アリゾナ州トゥーソで活動するジャーナリストで、メキシコの麻薬戦争が住民に与える影響を幅広く報道している。最近メキシコの麻薬戦争に関する2本の記事を発表した。マザージョーンズ誌に発表した “We Bring Fear” (私たちが恐怖をもたらす)は、メキシコ軍から脅迫を受け米国に政治亡命を申請しているメキシコ人記者エミリオ・グティエレス・ソトのケースを時系列に沿って記録したもの。もう一本の記事は、ハーパーズ誌に発表されたもので、麻薬カルテルに雇われて殺し屋も引き受けるメキシコ警察の署長のプロフィールを負ったもの。最新書は Some of the Dead Are Still Breathing: Living in the Future. (『生き続ける死者達』)

関連URL
"We Bring Fear"
"The sicario: A Juárez hit man speaks" (Harper's)

Credits: 

字幕翻訳:中村達人/校正:斉木裕明

全体監修:中野真紀子・付天斉