Googleブックサーチ訴訟の和解は裁判制度を利用した独占の正当化

2009/4/30(Thu)
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米国の訴訟和解が日本の著者や出版社にまで影響することで日本でも少なからぬ反響をもたらしたグーグルのブックサーチ機能をめぐる裁判と和解について、一つの視点を提供するセグメントです。

グーグル社は大学などの有名図書館が所蔵する膨大な数の書籍をデジタル化し、インターネット上で公開する壮大な計画を数年前から進めています。すでに700万冊以上が電子化されていますが、著作権が保護されている書籍の検索サービスについては、著作権者の権利を侵害するものであるとして米国作家組合や出版社協会を中心とする集団代表訴訟(クラス・アクション)が起こっていました。今年4月に訴訟は和解に達しましたが、訴訟の性格上、著作権を保持するすべての人に影響を及ぼすことになるので、問題はさらに拡大しました。

米国特有の訴訟手続きであるクラスアクションは、多数の人々が被害を受ける事件が起こった場合に、一握りの人たちが被害者全体を代表する原告団を形成し、全員の利害を代表して企業などを提訴し、賠償を求める制度です。この場合、被害者集団が「クラス」として認められれば、必ずしも全員の委任をとる必要はありません。公害や薬害や欠陥商品など、個人では訴訟を起こしにくく、広い範囲に被害者がいる場合には有効ですが、今回のグーグル訴訟においては、原告団の中心をなす米国作家組合がはたして全世界の著作権所有者を代表できるのかという問題や、和解内容が過去の被害の補償だけでなく今後の権利保障の枠組みまで決めているという問題をはらんでいます。

グーグルのブックサーチによって死蔵されていた多数の書籍が蘇ることは素晴らしいし、一般市民にアクセスの機会が一挙に増大することでは従来のシステムは太刀打ちできないでしょうが、良いことばかりではありません。一民間企業が将来にわたって書籍情報へのアクセスを独占的に支配するということの意味を深く考えてみる必要もあるのではないでしょうか。グーグルと同じ書籍の電子化を行なっているインターネットアーカイブ(archive.org)の創始者ブリュースター・ケールの警告に耳を傾けてみましょう。(中野)

ブリュースター・ケール(Brewster Kahle)非営利オンライン図書館「インターネットアーカイブ」(Internet Archive)の創始者。100万冊以上の書籍を電子化し、オンライン上で無料公開しているほか、世界中のインターネットサイトのスナップショットを定期的に保存し、過去の参照を可能にしたウェイバック・マシンでも名高い。

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字幕翻訳:桜井まり子/校正・全体監修:中野真紀子・高田絵里