世界経済危機で10億人が貧困へ 露呈する自由貿易主義の欺瞞

2009/2/17(Tue)
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米国を震源地とする世界的な不況の波に、世界中の国々が飲み込まれています。そんな中で最も大きな被害を受けている途上国は、この危機の原因を作った欧米諸国に対して何を望んでいるのでしょうか?マレーシアに本部を置き、世界中の途上国の市民運動の声を伝えるNGO「第三世界ネットワーク」のマーティン・コー氏に聞いてみましょう。

2008年第4四半期に米国経済は約4%落ち込みましたが、アジアでは韓国21%減、シンガポール17%減、日本13%減、中国でさえゼロ成長でした。輸出も大幅に落ち込んでいます。そんな中で2月半ばに開かれたG7蔵相会議では、保護主義の台頭に対する懸念が盛んに論じられました。とりわけ問題とされたのは、米国の景気対策法案に盛り込まれた「バイアメリカン条項」です。公共工事で調達する鉄鋼や工業製品は米国産に限るというこの条項は、EUや日本の反発にもかかわらず成立してしまいました。

第三世界の側からこの事態を見れば、G7は相変わらず途上国には市場開放の継続を要求しておきながら、自国市場では途上国からの輸出を閉め出し、実質的に破綻した国内産業や銀行に巨額の救済資金をつぎ込んで、途上国市場にダンピングするという、これまでのやり方に輪をかけた身勝手な構造に他なりません。

しかも途上国は気候変動の影響にもさらされています。途上国における気候変動の影響は、その原因を作った先進国よりもずっと深刻であり、経済や産業の構造を転換する抜本対策が急務であるにもかかわらず、その資金も技術もありません。

先進国は自国の銀行を救済するためなら、何兆ドルもの救済資金を捻出できると言います。そんな打ち出の小槌があるのなら、途上国の気候変動対策を支援するためのわずか数千億ドルの資金が捻出できないわけはない、今回の危機はそれを証明して見せたとコーは言います。先進国の誤った金融経済政策が招いた危機のおかげで10万人が貧困に陥りかねない途上国に、彼らが必要と考える対策を選択する自由を与え、そのための資金と援助を与るのが先進国の義務だと、コーは言います。(中野)

*マーティン・コー(Martin Khor) エコノミスト、ジャーナリスト。マレーシアのペナン州に本部を置くNGO「第三世界ネットワーク」(Third World Network)の事務局長。 同団体は、環境問題や持続可能な経済、企業中心のグローバリゼーションなどの問題について途上国の市民団体の声を伝える。 コーはまた複数の国連機関の顧問をつとめ、世界貿易機構(WTO)の改革や、国際貿易や世界経済システムについて多数の著作がある

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字幕翻訳:内藤素子/校正・全体監修:中野真紀子