オバマの景気対策と金融再生計画を辛口採点

2009/2/13(Fri)
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2月13日、オバマ新政権の7890億ドルの景気対策法案が上下両院で可決されました。数週間のごたごたを経て、2月11日ようやく妥協が成立し、採決の運びとなりました。同じ週にガイトナー財務長官は「金融再生計画」を発表し、不良債権の買取基金の設置により不良債権処理を促進する方針を明らかにしました。こちらの方は、実体経済を放置して金融機関のみを救済し、そのつけを国民に回す詐欺的なものだという非難が上がっています。

ゲストは2008年の大統領選挙で民主党予備選挙に出馬したクシニッチ議員の主任経済顧問をつとめ、金融中心の経済を手厳しく批判するミズーリ大学教授マイケル・ハドソンと、代表的リベラル雑誌『アメリカン・プロスペクト』の編集者ロバート・カトナー。2人の代表的な反シカゴ学派の経済論客が、オバマ政権の景気対策と金融対策をきびしく採点します。

景気対策については、基本的な問題は財政支出の規模が小さすぎることです。約5千億ドルの財政支出と、3千億ドル近い減税が含まれますが、カトナーは少なくともこの3倍は必要だと言います。いずれ追加予算を組むことが必要になるのでしょうが、オバマ政権は共和党の強硬な反対を克服しなければなりません。

一方、ガイトナー長官の発表した金融再生計画については、2人とも口をそろえて酷評します。数兆ドルの大金をつぎ込んで救済するのは金融機関であり、住宅ローンの借り手ではありません。ハドソン教授は、抵当物件の価値を大きく上回る銀行の融資に政府が不足分の穴埋めを保証すれば、借金はとめどなく膨らんで経済全体の返済能力を超えてしまい、実体経済は縮小すると警告します。オバマ政権は国の債務を2倍に増やして銀行やウォール街を救済することで米国史上最大の収奪を行ない、納税者に次世代まで続く債務を負わせ、債権者という新たな支配階級を作り出したとこき下ろします。

カトナーも、ガイトナー長官は投資ファンドやヘッジファンドなどを使って銀行を救済し、危機の原因を作ったシステムを蘇生させようとしていると批判します。事実上倒産している大手銀行を生かし続けることで、問題を先送りして国民の負担を増大させているのは、ウォール街のインサイダーたちが政策を策定しているからです。

債務超過に陥った「ゾンビ銀行」は、生ける屍であるだけでなく、吸血によって伝染する寄生体です。宿主は脳みそをのっとられ、自分の体の一部だと思い込んで、栄養を与える。銀行が復調しないと経済の回復はおぼつかないという主張は、経済全体をゾンビ化するものであり、大手銀行が経済全体を人質にとって政府から金をゆすり取っているのが問題の本質だとハドソン教授は言います。(中野)

*マイケル・ハドソン(Michael Hudson) カンサスシティのミズーリ大学金融経済学教授。証券業界のエコノミストとして活躍した経験を持ち、『超帝国主義国家アメリカの内幕』など多数の著書がある。2008年の大統領選で民主党クシニッチ候補の主任経済顧問をつとめた。

*ロバート・カトナー(Robert Kuttner) 経済専門ジャーナリスト。リベラル派の雑誌『アメリカン・プロスペクト』の共同創設者でシンクタンク「デモス」の上級研究員。『新ケインズ主義の時代 国際経済システムの再構築』など著書多数。最新著はObama’s Challenge: America’s Economic Crisis and the Power of a Transformative Presidency(『オバマの挑戦 アメリカの経済危機と「変革」の大統領の権限』)

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字幕翻訳:藤賀晃・関房江/校正:関房江・中野真紀子
全体監修:中野真紀子