スラヴォイ・ジジェクとの対話 「あれから40年、我々は今?」 後編
スロベニアの思想家スラヴォイ・ジジェクはヨーロッパを代表する知識人の一人です。ラカンの精神分析を適用した文化評論で知られ、50冊以上の著作があります。1990年には旧ユーゴ諸国で最初の自由選挙で大統領候補として出馬しました。今年春にニューヨークで「"68年"より40年、われわれはどこにきたのか?」という講演を行った折に、デモクラシー・ナウ!のスタジオを訪れました。
1968年の「プラハの春」について、ソ連の軍事介入は、実は天恵だったかもしれない、とジジェクは冷めた評価を下します。介入さえなければ本物の「民主的な社会主義」が開花したはずだと信じ、幻滅せずにすんだからです。ソ連の介入がなければ、改革は成功していたのか? チェコ国内でさまざまなイデオロギーが噴出し、いずれは資本主義陣営に加わるか、あるいは自ら改革をストップさせて混乱を収拾せざるをえなかったのではないのか?中国の天安門事件にも同じことがいえます。
「独裁や強権政治しか道がないと言うつもりはないが、安全な幻想にひたるのはやめよう。この悪い癖のせいで、今の左翼はよろこんで敗北する。私は今もマルクス主義や共産主義を信じていますが、優れたマルクス主義的分析は敗北の分析ばかりだ。パリ・コミューンがどうの10月革命がこうのと、失敗に理由づけをおこない、それだけで満足している」。
新著『敗れし大儀を弁護して』を上梓したばかりのジジェクは、現在の左翼のありかたをきびしく問いただします。「こういう居心地のいい抵抗のあり方に問題を感じるのです。今の左翼は、”権力と渡り合うな” "抵抗したら引き下がり、安全なモラリストの立場を貫け"と言う。嘆かわしいことです」。
「フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』をバカにするのが流行ですが、現実には左翼でさえフクヤマ主義者ではないですか。資本主義の継続、国家機構の継続を疑う者はいない。かつては"人間の顔をした社会主義"を求めたのに、今の左翼は"人間の顔をしたグローバル資本主義"で妥協する。それでいいのか?」
「文化理論のエルビス」とエイミーの対話をお楽しみ下さい。(中野)
★ ニュースレター第10号(2009.2.28)
★ DVD 2008年度 第2巻 「1968年と今」に収録
*スラヴォイ・ジジェク(Slavoj Zizek), スロベニアの哲学者、精神分析家、文化理論家。In Defense of Lost Causes(『敗れし大儀を弁護して』)など50冊以上の著書がある。
字幕翻訳:大竹秀子 / 校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子