「貧者の銀行家」ムハマド・ユヌス ソーシャルビジネスと資本主義の未来を語る

2008/2/12(Tue)
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バングラデシュのグラミン銀行総裁ムハマド・ユヌスは、マイクロクレジット事業を切り開いた実績を評価され2006年のノーベル平和賞を受賞しました。マイクロクレジットとは、貧困層を支援する無担保長期返済の小口金融のことで、グラミン銀行は特に女性の支援に力を入れています。

世界の大多数の人々は銀行を利用できません。わずかなお金でも高利貸を利用するしかなく、借金に苦しみます。もし担保も保証人もなしにお金を借りることができれば、貧しい女性たちは、鶏を飼ったり手工芸に投資したりしてお金を稼ぎ、借金も返していくことができます。家を守り子供を育てる女性たちを支援するマイクロクレジットとは、どんなしくみなのでしょうか?

でも金融ですべての問題が解決するわけではありません。新しい経済の理念も必要です。資本主義の理念では利潤の追求が企業の唯一の使命です。しかし、もちろん人間はお金儲けの機械ではなく、他者を思いやり、分かち合おうとする存在です。ビジネスの世界に人間性の全体を反映するためには、利己主義に基づく従来の事業概念を逆転させた、利他主義に基づく事業も必要だとユヌスは言い、それをソーシャルビジネスと呼びます。バングラデシュのグラミン・ダノン社はそれを実現させた一つの例です。

第三世界だけではありません。米国でも銀行に口座を開けない人々が何百万人もいますが、そのために給与や還付金の受け取りに高額の手数料を支払わなくてはなりません。こうした人たちのためにグラミン・アメリカも立ち上がっています。そのほかにも健康保険やマイクロクレジット、金融サービス、住宅供給など様々な分野でソーシャルビジネスを展開するために、斬新な事業プランに投資するための基金も創設中です。

2006年末オスロでのノーベル賞授賞式で、ユヌスは貧困こそが平和への脅威だと語りました。貧困とは人権がないこと意味します。極貧が生み出す不満 敵意 怒りが、社会の平穏を妨げるのです。米国はテロとの戦争に何千億ドルもの戦費をつぎ込んでいますが、軍事行動ではテロに勝てません。テロ根絶のためには、その根本的原因への対処が必要です。誰もが人並みの暮らしをする機会を持てるようにしなければならないと、ユヌスは言います。(中野)

ムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus) 1970年代にマイクロクレジットを開始し、グラミン銀行を創設して総裁をつとめる。2006年グラミン銀行と共にノーベル平和賞を受賞した。『ムハマド・ユヌス自伝 : 貧困なき世界をめざす銀行家』(早川書房)はベストセラーになった。彼の新著はCreating a World Without Poverty: Social Business and the Future of Capitalism(『貧困なき世界をめざす:ソーシャルビジネス、そして資本主義の未来』)です。

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字幕翻訳:大竹秀子/校正・監修:中野真紀子