グレッグ・パラストが語るハゲタカ・ファンドを終わらせるための戦い
2005年、G8先進国会議はアフリカ14カ国を含む貧困途上国18カ国に対する債務免除に合意し、それを受けた世界銀行や国際通貨基金(IMF) などの国際金融機関は総額約570ドルの債権放棄を決定しました。2007年6月のG8会議でも、貧困国の債務免除についての合意が再度確認されました。ところが実際には、欧米に拠点を置く国際民間企業が起こす巨額の債務返済訴訟によって、債務免除によって生まれたせっかくの社会開発の資金が、貧困国から吸い上げられるという現象が起きています。「ハゲタカ・ファンド」と総称される複数の民間企業が法の抜け道をうまく利用して、貧困国の債権で儲けようとしているのです。
英BBCの記者グレッグ・パラストはこのハゲタカ・ファンドの実態を暴露するレポートを作成、デモクラシー・ナウ!でも2007年2月に放送しました。そこで紹介されたハゲタカ達の手口は次のようなものでした。
1979年、ルーマニア政府がザンビア政府に1500万ドルを融資。1999年困窮したザンビアにルーマニアが債務を300万ドルに縮小する救済策を提案します。ところが交渉妥結の直前にドニゴール・インターナショナルという民間会社がその債権をルーマニアから330万ドルで購入。その後ドニゴール社はザンビア政府を相手に債権の額面元金、利子、手数料など、合わせて5500万ドルの支払い請求訴訟を起こしたのです。イギリスの裁判所は今年、ドニゴール社の手口を非難しながらも債権に違法性は無いとしてザンビア政府に元金1500万ドルの支払いを命じました。
このパラストのレポートを見て義憤を感じた米議会のジョン・コンヤーズ議員とドナルド・ペイン議員はブッシュ大統領に対策を迫って直訴、公聴会などを開いてハゲタカ・ファンドが米国の裁判所で貧困国相手の訴訟を起こせないようにする運動を始めました。英国のブラウン新首相らもハゲタカ・ファンドの活動を法的に封じる対策を検討中です。
ところがハゲタカ・ファンドから政治家へ流れる金が問題の行方を不透明にしているのです。ドニゴール社は慈善団体に寄付をするという名目で、債権を入手した当時のザンビア大統領に巨額の賄賂を送ったと言われています。また、当のブッシュ米大統領も世界最大のハゲタカ・ファンドの経営者ポール・シンガーから政治資金を提供されています。
ハゲタカ・ファンドによる債権回収は、国際金融機関からの債権免除で貧困国の国庫に生じた僅かな資金だけでなく、先進国から提供される、エイズ対策や、教育開発、社会整備などに当てられるはずの援助までもが民間の投資家の懐に流れるという構図を作り出しています。
グレッグ・パラストとデモクラシーナウ!はこのハゲタカ・ファンドの実態を暴く報道に継続的に取り組んでいます。 (石川麻矢子)
*グレッグ・パラスト(Greg Palast): イギリスのBBC やガーディアン紙を中心に活躍するアメリカ人ジャーナリスト。主な著書に『金で買えるアメリカ民主主義』(角川書店)、Armed Madhouse( 『 武装したマッドハウス』)、Democracy and Regulation 『(民主主義と法』)などがある
字幕翻訳:永井愛弓
全体監修:古山葉子