『誰が電気自動車を殺した?』 GMのEV-1の不可思議な消失

2007/4/13(Fri)
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18分

 低公害車の導入をめぐって米国では大きな論争が巻き起こっていますが、その渦中に置かれてきたのがジェネラル・モーターズ(GM)です。同社は1996年に電気自動車 EV-1をカリフォルニア州とアリゾナ州で提供し始めました。数百台の電気自動車が市中を走り始めましたが、やがてそれらはすべて姿を消してしまいました。Who Killed the Electric Car?(誰が電気自動車を殺した)は、この消失の謎を追うドキュメンタリー映画です。スタジオには監督のクリス・ペインを招き、映画の一部を紹介します。またロサンゼルスからの中継で元GM社員としてEV-1事業に携わり、後に同社を内部告発したチェルシー・セククストン氏の話を聞きます。

 そもそも自動車業界が電気自動車の導入に本格的に取り組み始めたのは、90年代にカリフォルニア州が排気ガスを出さない車の販売を義務付けたからです。カリフォルニア州大気資源局は、温室効果ガスを抑制するため、同州で販売される自動車の一部はゼロエミッション車(ZEV)でなければならないとする規制を、1990年に設けました。当初の計画では、1998年までにZEVの割合を販売車両全体の2%にすることを義務付け、2003年にはこの割合を10%に引き上げることになっていました。

 この基準をクリアするため、メーカー各社は電気自動を市場に導入しました。GMのEV-1に続いて、フォードのRanger EV、ホンダのEV Plus、トヨタのRAV-4 EVなどが次々に登場し、カリフォルニアの市中を走りました。しかし、これらはごく一部を除いてすべてリースで提供されており、後にほとんどがメーカーに回収され、破壊されることになります。電気自動車の予想外の人気に危機感を覚えた自動車メーカーが、2003年末ごろから各社いっせいに回収に動きだしたのです。姿を消した電気自動車は、人里はなれた処分場に運び込まれ、ぺしゃんこに潰された後、シュレッダーにかけて文字通り粉砕されてしまいました。まるで、この世に電気自動車なんてものが存在した痕跡を、残らず消し去りたいといわんばかりです。

 その一方で自動車業界は、石油業界と一緒に巨額の政治資金を使ってロビイングを行い、ブッシュ政権を巻き込んでカリフォルニア州の規制に法的な異議申し立てを行ないました。その結果、ゼロエミッションの義務付けは撤回されてしまいます。映画の登場人物が訴えているように、輸送用燃料の供給を独占する石油企業、ガソリン車を主力商品とする自動車メーカーが、それぞれの既得権益を守るために、電気自動車という新技術の市場拡大を、力づくで阻止したといえるでしょう。

 これに対し電気自動車を守ろうとする人々が立ち上がり、Plug In Americaのような団体をつくって抗議活動を行ないました。その結果フォードやトヨタは、電気自動車の処分を中止することに同意し、1000台ほどが市中に戻ったそうです。現在、電気自動車を製造する動きはありませんが、それに代えてトヨタやクライスラーなど数社がハイブリッド車の推進に力をいれています。(中野真紀子)

* クリス・ペイン (Chris Paine) 映画『誰が電気自動車を殺した?』の監督

* チェルシー・セクストン (Chelsea Sexton) GM社員としてEV-1 の開発に携わり、同社を内部告発。現在は電気自動車を救おうとする団体「プラグ・イン・アメリカ」Plug In Americaの事務局長を務めています

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翻訳・字幕: 寺尾光身 高田絵里
全体監修 中野真紀子