ムミア・アブ=ジャマールの再審なるか? 山場を迎える元ブラックパンサーの冤罪事件
5月17日、フィラデルフィアの連邦控訴院(第3巡回裁判所)で、黒人死刑囚ムミア・アブ=ジャマールの再審をめぐる口頭弁論が開かれた。このインタビューは、弁論の直前に、ムミアの古くからの友人、リン・ワシントン(テンプル大学教授)が、この裁判の意味について語ったもの。
ムミアは元ブラックパンサー党のスポークスマンで、著名なジャーナリスト。1981年末にフィラデルフィアで白人警官が殺害される事件が起きた際、不運にも現場に居合わせた。彼自身も何者かに銃で撃たれ重傷を負ったが、犯人として逮捕され、人種差別的な裁判官アルバート・セイボの法廷で有罪、死刑判決を受けた。
1995年から再審請求(PCRA)を行っている。彼のたたかいは、アメリカの死刑制度の人種差別性、黒人ジャーナリストへの政治的弾圧と言論圧殺に対するたたかいとして、全米のみならず、ヨーロッパ各国でも大きな支援運動を広げている。フランスでは、パリ市が彼を名誉市民とし、サンドニ市には、彼の名前を冠したストリートがある。
5月17日の口頭弁論は、連邦控訴院が弁護側の主張の一部を取り入れ、以下の4点について審理を行うことを決定したもの。州の各級裁判所や連邦地裁が弁護側の憲法違反の主張をすべて退け、事実の再審理を行うことを拒否してきたことと較べ、再審に向けた一歩前進と見られている。
<1>検察官が「一審で死刑になっても、被告人は上訴に上訴を重ねて、死刑を免れる可能性がある」と法廷で述べたことは、陪審員が軽々しく死刑を選択するように仕向け、公正な裁判を受ける被告人の権利を侵害した。憲法修正5条、6条、14条違反。
<2>検察が意図的に黒人を陪審から排除したことは、公正で平等な法的保護を受ける被告人の権利を侵害した。憲法修正6条、14条およびバトソン判例違反。
<3>原審の量刑段階における裁判官の陪審員への説示が不適切で、死刑を回避するために被告人に有利な状況を考慮する際に、全員一致でなくてもよいことを正しく伝えていなかった。憲法修正8条および14条違反で、残虐で異常な刑罰に相当する。また、ミルズ判例にも違反する。
<4>一審およびPCRA(再審請求審)におけるセイボ判事の人種差別的態度、なかんずく「クロンボをフライにしてやる」といった発言は、被告人の公正な裁判を受ける権利を侵害した。
これらの主張が認められれば、死刑判決を下した原審は無効とされ、まったく新たに陪審員を選定し直し、裁判がやり直されることになる。
しかし、連邦控訴院が弁護側主張を却下すれば、原審の死刑判決が有効とされるか、あるいは連邦地裁の決定に従って終身刑に減刑するか、いずれかとなる。 死刑の決定が出た場合、レンデル州知事はすみやかに執行命令に署名すると公言している。 弁護側主張が退けられた場合、連邦最高裁への上訴の道は残されているが、最高裁で結論がくつがえることはほぼ絶望的である。 あと数カ月以内に出される予定の連邦控訴院の結論は、発生から25年を経たムミアえん罪事件の最大の山場となっている。
5月17日当日は、大法廷の300の傍聴席が埋まり、入りきれなかった1000名余りの支援者が、法廷をとりまく中、ロバート・ブライアン主任弁護士らが予定を大幅に超える2時間以上の弁論を行った。支援者は、その後、フィラデルフィア中心部をデモ行進し、再審の開始とムミアの釈放を訴えた。
事件の詳細、裁判の経緯等は
ムミアの死刑執行停止を求める市民の会
ムミアは死刑囚監房の中からラジオ・コメンタリーを発信し続けている。彼の肉声はPrison Radioで聴くことができる。 (文: 今井恭平)
***************************************************関連トピックス
*(英語)「人種差別が影響として米連邦控訴審に再審請求 元ブラックパンサーの死刑囚ムミア・アブ=ジャマールの弁護団」
5月17日フィラデルフィア第3連邦巡回控訴裁判所の口頭弁論の翌日、ロバート・ブライアン弁護士が審理の状況などを報告
* リン・ワシントン (Linn Washington)『フィラデルフィア・トリビューン』のコラムニスト、テンプル大学ジャーナリズム学の教授。過去25年にわたり、ムミアの冤罪事件を追究している。
* ムミア・アブ=ジャマール(Mumia Abu-Jamal) 25年前に死刑判決を受け、今も獄中にある元ブラックパンサーのスポークスマン。番組で使われているのは、「プリズン・ラジオ」のオーディオ評論“Furor Over Politicizing Justice”(「司法の政治利用に怒り心頭?」)と、ラジオ番組Block Reportのインタビュー
翻訳・字幕 :宮前ゆかり 監修協力 今井恭平
全体監修 :中野真紀子