映画予告編:アメリカン・マスキュリニティーは幼い頃から植え付けられる
映画予告編:アメリカン・マスキュリニティーは幼い頃から植え付けられる
最近米国で話題になったNBCでのエドワード・スノーデン氏のアメリカのテレビによる初インタビューの直後、ジョン・ケリー米国務長官が スノーデン氏に対して“‘Man up‘ and come back to the United States.(”男らしく“米国に帰国(して処罰に対処すべきだ)”と発言したため、多くのメディアでは「男らしく」ということばに目をつけて話題をもり上げました。「Man Up! (男らしく)」の反対は「Being a Pussy(女々しく)」。こういったジェンダーへの決めつけ的な言い回しは、 オフェンシブ(攻撃的で不快) だと認識している私は、驚きました。
たとえば最近のデューク大学では、このような攻撃的な効果をもつ言葉は使わないようにしようという"You Don't Say"キャンペーンを展開しています。
The Collage Fixの記事:「‘Man Up,’ ‘Don’t Be A Pussy’ Labeled Offensive Language at Duke University」
画像:米国デューク大学で始まった“You Don’t Say?” キャンペーン in Facebook
■ アメリカン・マスキュリニティ
今回お届けするのは、公開前からソーシャルメディアでかなりの話題を呼んでいるドキュメンタリー映画の予告編です。冒頭ではいきなり「泣くな!」「女々しいぞ!」「感情を見せるな」「Be a Man! (男らしくしろ!)」「ガッツがない(下品にそのまま訳すと「チンポコがないのか!」)」など、男の子や男性のみに浴びさせられる言葉の連発からはじまります。映画のタイトルは『The Mask You Live In(ザ・マスク・ユー・リブ・イン) 』で、すらっと読めば「マスキューリ(ビ)ン」で「マスキュリン」にかけているそうです。
映画紹介サマリー:米国で男の子は 「行動障害」と診断される割合が女の子に比べて一段と高く、そのため医者からは興奮剤入りの薬を処方され、学校から落ちこぼれ、飲酒でどんちゃん騒ぎをしたり、暴力犯罪を犯したり、あるいは自らの命をたつなどの問題が著しいという調査結果が出ています。フィルムメーカーでフェミニストのジェニファー・シーベル・ニューサムさんは、新作映画 『The Mask You Live In 』の中で、米国社会が男の子の育て方にどのように失敗してきたかを問いかけています。
■ この映画がなぜ重要なのか
「「同情」や「共感」を表現することとは、弱さを見せることだ、と男の子は幼い時から教えられ続けます。男の子は感情を抑えることを強制され、仲間同士でも上下の階層を築き、常に自分の「男らしさ」を証明しなければいけない、という混乱させられるメッセージを聞きながら育ちます。
「成功」の定義はせばめられ、他人との関係においても、厳密な行動規範を固守しなくてはならないというプレッシャーを感じることが多いのです。さらに「ボーイ・クライシス(男の子の危機)」と多くの専門家が呼ぶ、男性特有の暴力行為へと導かれることもあります。
私たちの社会が男の子たちの社会的、感情的な面での健全なあり方に注意を払わず、認識しないために、 「感情のスキル」が不完全な状態の若者が、逆境や紛争に挑まなければならないことになるのです 。少年や青年がマスキュリニティ(男らしさ)というこの基準に順応するにせよ、反抗するにせよ、いずれの場合にも孤独、不安、苦痛が伴うといっても過言ではありません。
このドキュメンタリー映画『The Mask You Live In(ザ・マスク・ユー・リブ・イン)』では、ジェンダー・ステレオタイプが、人種、クラス(階級)、および状況などとどのように相互につながっているのか、さらに子供たちが、現在の教育制度、スポーツ文化、マスメディア、ビデオゲーム、特にポルノの影響をどのように受けとめているのかなどを検証していきます。
映画はさらに、家族間での好ましいコミュニケーション、オルタナティブ教育戦略、メディアと意識的に接する方法、ポジティブな役割モデルと革新的な指導者プログラムを通じて、男子たちへの社会的、感情的なニーズの重要性を強調していきます。」(出典:『The Mask You Live In』Kickstarter)
*この映画が説く視点は、日本でも有効です。たとえば、ウェブサイトでこんな記述をみつけました。加藤秀一著 『ジェンダー入門—知らないと恥ずかしい』より(朝日新聞社:131ページ引用)
「中高年男性の自殺という悲劇は、「男も差別されている」からではなく、男たちが男性役割に呪縛され、苦しみながらも、悲鳴を上げることさえできないというところから―それが原因のすべてではないにせよ―生じてくるのです(他人に悩みを打ち明けることが苦手であるというのも、よく知られた「男性役割」の一側面です)。」
■ 「TIME」誌に掲載された映画に対する反論
「この映画は、アメリカの男性文化が、男の子たちの人間性を強制的に抑圧し、そのせいで男子が危険人物になっていくという考えを示唆しているようだが、それは間違っている。」と保守派の非営利団体シンク・タンク、「American Enterprise Institute」の学者、クリスティーナ·ホフ・ソマーズさんは主張します。彼女によると 「マスキュリニティ」には二つの異なるタイプがあり、一つ目は、エネルギッシュで競争心の在る「健康的な」マスキュリニティ、二つ目は、弱い者いじめを楽しんだり、殺人を犯したりするといった犯罪事件などに見られる「病的な」マスキュリニティだと言います。タイム紙での議論の要点をまとめると
1) マスキュリニティは「マスク」以上のものである。雄サルの行動研究例をあげ、マスキュリニティは生物学的な差に影響を受けていると主張。
2) 「健康的」な男らしさと「病的」な男らしさの区別をするべき。
3) ある調査によると女の子は個人的な問題を語ることでケアされ理解されたと感じる傾向が強いが、男の子はそんなことは時間の無駄であり「おかしい」と感じる傾向が強い。
4) 10歳〜24歳の自殺の81%は男性が占めている。だが自殺する少年/青年の数は0.01%ほどにすぎず、ごく少数。鬱病自体は女子に多い傾向がみられる。
5) 男性を救う実践的取り組みを示すべき。オーストラリア人が開発した男性向けの「メンタル・フィットネス」プログラムでは健康的な「男らしさ」が育まれるように設定されている。(出典: TIME)
■ 最後にマーティンから
「ジェンダー・ステレオタイプ」は、文化的、時代的に固定観念化した「男らしさ・女らしさ」の定義であり、生物学的性別差によって画一的な特徴があると思い込む社会的規模の偏見だと私はみています。
私たちは、出産祝いのギフトを選ぶ時でも「女の子はピンクで、男の子はブルー」とい性別による簡単な色分けをしがちですが、これもジェンダー・ステレオタイプだと見られるようになってきました。最近、友人のカナダ人ジャーナリストから、ベイビーシャワーをする際に「私もパートナーもジェンダー・ステレオタイプを押し付ける風習には従わない主義です」と子供が生まれる前から ジェンダー・ニュートラリティを意識していることをハッキリと告げられました。それは「子供の性別は判明しているけどギフト選びには無関係なので教えたくないわ」という意図だったので、私の方からは白色のベビー肌着をプレゼントすることにしました。
人は性別に関係なく、皆生まれながらの個性や性質をもっているのであり、小さい頃から、(あるいは生まれてくる前から)「こうあるべき」という大人からの理想像の押しつけは、個人にとって抑圧的で有害になりうるという意見に私は賛成しています。ブルーなズボンが好きな女の子がいても、着せ替え人形遊びが好きな男の子がいても、キワモノ扱いされる必要のない世の中を作っていくには、このような(過去には利用価値があったであろう)性別、人種、職種などのステレオタイプや「ふつう」の定義を取り除いて行く必要があると思います。
現在、10人に1人はLGBT (レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)であると言われているようですが、ケリー米国務長官の使用した「Man Up!」というジェンダー・ステレオタイプな言い回しがしっくりこないとされるのも時代の流れであり、LGBT運動やフェミニズム運動の成果だと言えるでしょう。男の子のステレオタイプによる束縛からの解放もこのような運動につながっているからです。 さて、皆さんはどのようにお考えですか?
参考記事:
- 『The Mask you Live In』 official Homepage
- Huffington Post: Duke's 'You Don't Say' Campaign Reminds You Which Words Shouldn't Be Used As Slang
- Jezebel: New Documentary Explores the Pressures of Male Gender Stereotypes
- TIME: Masculinity Is More Than a Mask
- DailyMail UK: Making girls wear pink is WRONG: Education expert says color-coding children by gender is damaging
- Wikipedia: Demographic of sexual orientation