ベルタ・カセレス追悼 ホンジュラスで暗殺された先住民&環境運動の指導者

2016/3/4(Fri)
Video No.: 
4
15分

2016学生字幕翻訳コンテスト 課題4:「軍事独裁は資源開発企業の天国」の受賞作です。

ホンジュラスの環境保護活動家ベルタ・カセレスが2016年3月に自宅で暗殺されました。彼女はホンジュラス先住民の土地への権利の運動を組織した中心的な人物でした。1993年に「ホンジュラス民衆と先住民の国民協議会(COPINH)」を仲間と共に設立しました。COPINHは何年も前から弾圧や殺害予告で脅されてきました。自分たちの生活を破壊する資源採鉱やダム建設に抗議して立ち上がったためです。カセレスは前年に、ゴールドマン環境賞という、草の根活動家を称え、環境分野では世界で最も栄誉ある賞を受賞したばかりでした。

ゴールドマン環境基金が公開したビデオの中で、カセレスは自分がいかにリオブランコ流域の先住民レンカ人の共同体の組織化に尽力し、水力発電ダム建設計画に抵抗したかを語っています。ダムの建設により先住民の水供給が脅かされるのです。一年以上も道路封鎖による抵抗を続け、ついにダム建設会社シノハイドロ(中国水電)をリオブランコから撤退させました。

でもそのために、多くの活動家が犠牲となりました。国際環境NGOグローバル・ウィットネスの報告書によれば、2014年には世界中で少なくとも116人の環境活動家が殺されており、その3分の1は中南米で起きています。中でもホンジュラスは環境活動家の生命が最も脅かされている国の一つです。殺人が横行する無法状態に陥ったきっかけは、2009年6月にマヌエル・セラヤ大統領を国外追放した軍部のクーデターがあります。それを率いたバスケス将軍は、米国の陸軍教練機関スクール・オブ・ジ・アメリカズ(SOA)で学んでいました。

セラヤは特権階級出身の実業家で当初は保守的でしたが、2007年以降は、中南米全体に広がった左派的な傾向に呼応して、革新的な立場を取り始めました。ベネズエラのウゴ・チャベス大統領への支持を表明し、ホンジュラスの強力な既得権益に戦いを挑むようになったセラヤは、上流層と反目し、米国政府を批判するようになっていました。一方でベルタ・カセレスのような土地改革や住民の権利、参加型民主主義を推進する草の根活動家と親密に連携していましたが、そのために大統領の座を追われることになりました。

クーデター後のホンジュラスでは、無法状態の中でジャーナリストや先住民の村を標的にした政治迫害が繰り返され、恐怖感が社会に浸透させ国民を萎縮させる政策が採られているとカセレスは語っています。そうした中で国際資本による資源開発やダム建設の計画が、どんどん進められています。(中野真紀子)

☆最近の報道で、ベルタ・カセレス暗殺にホンジュラス軍諜報機関と米国がかかわっていたことが明らかにされています。

*シルビオ・カリーリョ(Silvio Carrillo):ベルタ・カセレスの甥。サンフランシスコ在住のビデオジャーナリスト。
*ビバリー・ベル(Beverly Bell):ベルタカセレスの長年の友人で同僚。現在は社会経済正義団体「アザーワールド」Other Worldsに勤務。政策研究所の研究員。

Credits: 

字幕翻訳:高根祐介 パリ第3大学通訳翻訳高等学院(ESIT)翻訳科 2年(2016学生字幕翻訳コンテスト受賞作品)
監修:中野真紀子