サパティスタ蜂起から20年 NAFTAに立ち向かったメキシコ先住民が築いたオルタナティブ社会

2014/1/3(Fri)
Video No.: 
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12分

クラウドファンディングで字幕をつけた長編の第二弾。ちょうど一年前に放送されたNAFTA(北米自由貿易協定)20周年の番組の後半で、メキシコのサパティスタ蜂起とその後を追います。

2014 年5月末に、「マルコス副司令官が引退」という小さなニュースがありました。20年前にメキシコでNAFTA(北米自由貿易協定)に反対して蜂起したサパティスタ民族解放軍のリーダー(の具現化)です。マルコスは役割を終え、次世代に道を譲って消滅しました。

NAFTAは米国、カナダ、メキシコの北米3カ国のあいだで結ばれた、TPPの元祖みたいな地域間自由貿易協定です。「貿易障壁を取り払うことにより、NAFTAは世界最大の自由貿易圏を作り出し、米国だけでも一年以内に20万の雇用を創出する。環境や雇用面で米国が指導力を発揮し社会の前進をもたらす」という締結当時のうたい文句とは裏腹に、この20年で米国の雇用は失われ、メキシコではトウモロコシの生産が壊滅的な打撃を受けて農村地帯が困窮し、仕事を求めて米国に流入する無資格移民が百万人を超えています。

地域間自由貿易協定が引き起こすこのような悲惨な結果を当初から予測して反対の声をあげて立ち上がったのが、メキシコの奥地の貧しい先住民たちだったことは、記憶に刻んでおきたいものです。NAFTAが発効した1994年1月1日、チアパス州の先住民が「NAFTAは自分たちへの死刑宣告だ」と訴え、自由貿易協定を推進する中央政府に宣戦を布告しました。武装蜂起した農民中心のサパティスタ民族解放軍は、瞬く間にチアパス州の5つの主要な町を制圧しました。巧妙なメディア戦略も奏功して、この蜂起は世界に大きな衝撃を与えました。

あれから20年、サパティスタはチアパス州のおよそ3分の1を掌握し、サパティスモ(サパタ主義)と呼ばれる独自の方法論に基づいた自治を行っています。彼ら自身の言葉を伝える独立メディアの映像を使って振り返りましょう。

「オルタナティブな社会の見本です。輪番制の集団自治や、独自の教育制度や医療制度、生産共同体による地域経済の復興、独自の司法制度はメキシコ政府より はるかに公正です。大勢の若者や女性が自治政府の要職に就きました。別の社会のビジョンを持つ人々が自治権を獲得すれば、どんなにすごいことができるかを見せてくれました」とメキシコの社会運動研究者ピーター・ロセットは語っています。

サパティスタは先住民主体とはいえ都市部にも共鳴者を持ち、国内や外国にも支持を広げています。グローバル化の中で、別の形の未来を模索する人々にとって、サパティスタの蜂起に学ぶところは沢山あるようです。(中野真紀子)

☆ このセグメントはクラウドファンディングが成立したおかげで字幕をつけることができました。スポンサーになっていただいた皆さんに、心から感謝を申し上げます。

*ピーターロセット(Peter Rosset)サンクリストバルのエコスール調査研究所教授で農村社会運動と農業エコロジーを教える。グローバルな農民運動「ビア・カンペシーナ」にもかかわっている。

Credits: 

字幕翻訳:大竹秀子 / 校正:中野真紀子