ウィキリークスがTPP知財条項の草案を暴露

2013/11/14(Thu)
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ウィキリークスが公開したTPP交渉の知財関連の章の草案をめぐるディベートです。TPP交渉の一番の問題は、なによりもまず秘密主義です。各国政府の交渉担当官の他には利権を持つ業界や企業の代表しか詳細を知ることができません。ウィキリークスによってようやく内容を知った、ということ自体が問題です。米国ではこれまでTPP交渉はほとんど注目されてこなかったのですが、これでようやくその危険性に対する関心が高まり そうです。ウィキリークスが取り上げたことで、その怪しさがいっそう強調されました。とくにアサンジの指摘によって、昨年春に大規模な市民運動の力で一気 に廃案に追い込まれたSOPA(オンライン海賊行為防止法案)やACTAからの継続性が強調されたので、ネット市民の警戒の目も一段と厳しくなるでしょ う。

公表された知的財産に関する章の草案は約3万ワードに及ぶ全文で、参加各国の賛否や提案まで書き込まれています。製造特許権や複製配布権、商標権などを保 護するためインターネットの利用や表現の自由が制限され、安価な医薬品の入手が困難になるなど私たちの生活に大きな影響が出ます。そもそも知的財産権の 「保護」が、自由貿易推進という名目で行われていることがおかしい。実際には製薬会社が高額の医薬品価格を押し付けたり、映画会社が作品の独占権を半永久 的に行使するための交渉です。もともと知的財産なんて、ないところに柵を立てるようにして作り上げたな独占利権です。この柵の守りを固めて独占企業の利益 を保護することが、どうして貿易障壁の撤廃になるのでしょうか。

番組でこの点を突っ込まれたケイトー研究所(新自由主義シンクタンク)のウィリアム・ワトソンは、知的財産権の問題は本来の関税引き下げを目的とした自由 貿易交渉からはずれていることを認め、こんなものが混入してき理由は、輸出企業の利益を保護するための自由貿易交渉に他の国内業界の支持をとりつけるため だったと説明しています。そうであるなら、皮肉な結果です。公開された草案でもわかるように、知的財産をめぐっては各国の主張がてんでばらばらです。交渉 がまとまるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。オバマ大統領やマイケル・フロマン通商代表は今年中に最終合意に持ち込みたいと言っているようです が、とてもそれに間に合うようには見えません。

それ以上に足を引っ張りそうなのが、大統領が議会に要求している貿易促進権限(TPA)の問題です。ファーストトラック権限とも呼ばれますが、外国政府と の通商交渉にあたって、議会が大統領に対し個々の内容の修正を求めず迅速に合意を結ぶ権利を与え、議会はその合意を一括して「承認」または「不承認」にす るという取り決めです。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2002年にこの権限を付与されましたが2007年に失効したままになっています。オバマ大統領は 今年中に決着をつけるためにTPAが必要だと訴えていますが、ここへきて議会で反対の声が広がりはじめたようです。お膝元の民主党の議員あいだに、議会の 権限をむやみに委譲することに対して懐疑的な声が増えてきたのに加え、オバマには何でも反対のティーパーティ系の議員も反対しているためです。

日本の著作権との関係で言えば、福井健策さんが指摘しているように、すでに日本では大方の規制は実現されているのですが、唯一の救いが日本では著作権侵害 が親告罪になっていることです。これが非親告罪化されると大変なことになりますが、TPPで非親告罪化に反対しているのは日本だけのようです。日本政府の 交渉能力や情報開示にはまったく期待できないのですから、せめては米国で反TPPの声が盛り上がり、ぶちこわしにしてくれることを祈りましょう。これを きっかけに議会で追及が始まり、交渉内容がどんどん明るみに出て、企業の陰謀が発覚して行きずまってしまいますように。 (中野真紀子)

*ロリ・ウォラック(Lori Wallach) 市民団体パブリック・シチズンのグローバル・トレード・ウォッチ代表。オバマ大統領が欲しがっている「貿易促進権限」について、独立戦争時代からの歴史をさかのぼった興味深い本を書いている。The Rise and Fall of Fast Track Trade Authority, by Loli Wallack tradewatch.org
*ビル・ワトソン(Bill Watson) ケイト―研究所(リバタリアンのシンクタンク)の貿易政策アナリスト

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字幕翻訳:柴田麗奈/全体監修:中野真紀子