ハゲタカ・ファンドで築いたミット・ロムニーの財産

2012/8/30(Thu)
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共和党の大統領選候補ミット・ロムニーは、ウォール街の熱烈な支持を受けて指名を勝ち取った大富豪の政治家です。「穏健派」というラベルを貼られがちですが、それはお金のこと以外には淡白なので人工中絶や同性婚問題に関しては宗教右派の候補に比べ穏健に見えるだけのことで、ロムニーの本質は金融資本の利益代表です。その本性を把握するには、彼の巨万の資産がいかに築かれたかを見る必要があります。1984年にロムニーが共同設立し、ベイン社(Bain&Company)から分離独立させたプライベートエクイティ・ファンドのベインキャピタル社(Bain Capital)は、企業を標的にするいわゆる「ハゲタカ」資本主義の典型です。

ベインキャピタルでロムニーが得意としたレバレッジドバイアウト(LBO)という企業買収の手法は、業績不振の企業に狙いをつけ、その企業の資産やキャッシュフローを担保に資金を調達し、首尾よく50%以上の株式を買収して経営権を握った暁には、資産売却や経営の合理化などによって買収した企業の富を絞りだし、調達した資金の返済にあてるものです。「企業再生ファンド」などと呼ぶと、まるで企業を立ち直らせるように聞こえますが、それは大きな誤解です。実際には弱った企業を食い物にして、資産を絞り取るための企業乗っ取りなのです。

米国でLBOが盛んになったのは1980年代です。この時期はちょうど、米国経済全体の軸足が産業資主義から金融資本へと大きくシフトした時期です。従来のような製造業中心型の経済で製品輸出によって稼ぐのではなく、金融取引に資本が集中し、さまざまな金融商品を販売することで稼ぐようになってきました。企業そのものを金儲けの対象とするLBOは金融資本が産業資本を食い物にする一例といえるかもしれません。ミット・ロムニーは、こうした米国経済の大きな変化を象徴する人物です。

こうした「経済の金融化」の流れが富裕層に歓迎されるのは、金儲けに効率がいいからです。産業資本モデルでは生産に従事する労働者もそれなりに富の分配に預かり、経済全体にお金がまわって社会が潤いますが、金融資本モデルは雇用を生み出さず、労働者に富をまわすことなく全ての利益を「1%」の富裕層が回収できるからです。雇用の創出に興味がないので、学校や病院のような社会インフラの整備にも消極的で、財政支出の削減が最大の政策目標です。こうした反社会的とさえ言える金融資本の利害を代表するロムニー候補が、無制限の選挙献金を可能にするスーパーPACのおかげで前代未聞のキャンペーン資金を集め、オバマ候補と競り合っている、というのが今年の大統領選挙の構図でしょう。(中野真紀子)

*マット・タイビ(Matt Taibbi)ローリング・ストーン誌の寄稿エディター。最新の記事は 「貪欲と負債」政治家と米国史上最悪の権力闘争」

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字幕翻訳:齋藤雅子/全体監修:中野真紀子