公共テレビの巨星ビル・モイヤーズ
アメリカの伝説的ジャーナリスト、ビル・モイヤーズが、民主主義擁護に賭けた気骨の生涯を語る特別番組です。モイヤーズはジョンソン大統領の若き報道官として1967年に公共放送法の成立を目撃し、公共放送の誕生に立ち会いました。ベトナム戦争が拡大していく中、ジョンソン政権内のハト派だったモイヤーズは「予算も労力も時間もすべてが戦争努力に吸い取られ」、公民権運動などジョンソンの国内でのせっかくの成果がいかされないことに失望。政権を離れ、ジャーナリストとしての活動を始めました。新聞を皮切りにテレビの世界にはいった彼は、放送ジャーナリズムの「第2世代のパイオニア」として、メジャーネットワーク局NBC、CBSのニュース解説者として活躍した後、公共放送局PBSでTV放送史に残る数々の名番組をプロデュースし、不動の地位を獲得しました。ジョンソン政権時代に「主流メディアと政権のなれ合い」を間近にし、それが「今日の米国をむしばむもっとも危険な害道のひとつ」であることを身にしみて知った彼は、独立ジャーナリズムの闘うご意見番として、右派の攻撃に対し公共放送側からの反撃を支えてきました。彼にとって公共放送とは「視聴者を消費者ではなく市民として尊重する局」です。企業権力の手から独立し、「欲と権力に対する歯止め」としての民主主義を支えるべき公共放送。なのに、「今は均衡が崩れ、カネの力が民主主義をしのいで」います。司会役を努めていたPBS局の「ビル・モイヤーズ・ジャーナル」が2010年に終了し、一時は引退か?と思われた彼ですが、とても勇退などしていられない状況でもあったのでしょう。公共テレビのPBS局や公共ラジオのNPR局の骨抜きが憂慮される中、2012年1月から、Moyers & Companyという週1回1時間のインタビュー番組を公共テレビAPT(American Public Television)で開始すると発表し、「生涯ジャーナリスト」の道を邁進中です。(大竹秀子)
*ビル・モイヤーズ(Bill Moyers)リンドン・ジョンソン大統領の報道官で、ピースコーの創設者の1人。元『ニュースデイ』発行人、CBSニュースの上級特派員をつとめ、公共放送で多くの重 要番組をプロデュースした。エミー賞を30回以上も受賞し、著書も多い。邦訳されているのは、番組と連携し、全米に神話学を巻き起こした全米ベストセラー『神話の力』(ジョーゼフ・キャンベルとの共著・早川書房)、米国気鋭の医師、科学者11人が、人の治癒力を引き出すさまざまな試みとその成果を語る、これまた大ベストセラー『こころと治癒力‐心身医療最前線』(草思社)など。
字幕翻訳:大竹秀子/全体監修:中野真紀子/サイト作成:丸山紀一朗