軍事から外交へ?  傭兵に支えられたイラク占領のダウンサイジング

2010/8/3(Tue)
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米国は8月末にイラクに進駐する米軍全戦闘部隊を撤退させ、2012年末までには完全撤退する予定です。オバマ大統領は、こう語ります。「イラクでの米国の軍事行動は2010年8月31日に終了します。すでに多数の基地を閉鎖し、イラク政府に引き渡しました。・・・テロリストの妨害にもかかわらず、米軍とイラク軍の協力によって暴力事件の発生は数年来で最低のレベルです。来月から米軍の任務は戦闘ではなくイラク治安部隊の支援や訓練に変わります。でも誤解しないように。イラクでの任務は、軍人が率いる戦闘から文民が率いる外交へと変わるのです」。
ジェレミー・スケイヒルは、この声明の欺瞞をことごとくあばき、これはむしろ民間軍事会社に依存する占領のダウンサイジングだと言います。選挙公約の実現と胸をはりますが、じつはブッシュ時代に決まったペトレアス将軍の計画を実行に移しているだけ。
外交への切り替えといっても、クリントン長官は国務省の戦闘能力の大幅な増強を要請しており、傭兵や軍事請負業者を大量に採用しています。バグダッドの米国大使館はバチカン市国と同じ広さで、歴史にも匹敵するものない巨大要塞のような施設です。これを警備するため国務省は7千人程の特殊部隊員を要求していますが、これは米国が世界75カ国に派遣している特殊部隊員の総数の2倍に近い数字です。装甲車両や攻撃用ヘリ部隊も備えており、外交官の警備と称して傭兵部隊を使っています。
治安が改善したというのも、事実ではなさそうです。イラク政府の発表では7月の死者数は2008年以降で最高に達し、政情は不安定なまま組閣もおぼつきません。
CIAが推すアヤド・アラウィ元首相と米政府が擁立するヌリ・アル・マリキ現首相が支配権を争う中、国民の大半は水も電気も不足がちで、ガソリンにも事欠いています。石油産出量はサダム・フセイン時代以下に落ち、経済制裁を受けていた頃よりもひどい生活です。今では食糧や燃料を買いに家を出るのも命がけで、数百万が国内外で難民になり、サダム時代を懐かしんでいるといいます。(中野)
*ジェレミー・スケイヒル (Jeremy Scahill) ジョージ・ポーク賞受賞の調査報道ジャーナリスト。ネイション・インスティテュートのフェロー。ベストセラーになった、Blackwater: The Rise of the World’s Most Powerful Mercenary Army(『ブラックウォーター  世界最強の傭兵軍の勃興』)の著者。
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字幕翻訳:田中泉/校正:大竹秀子
全体監修:中野真紀子