ご近所の敵、中絶の権利をめぐる街角の闘い

2010/8/2(Mon)
Video No.: 
2
15分


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2009年5月のギャラップ調査では、米国で妊娠中絶に反対する人(pro-life)の数が妊娠中絶を選ぶ権利を支持する人(pro-choice)の数を1995年以来、初めてうわまわりました(51%対42%)。レイチェル・グレイディとハイディ・エウィングのドキュメンタリー映画『12th and Delaware(デラウェア通り12丁目)』は、日常生活の中で正面切って論じられることが少ないけれど米国を2分する、静かだけれども凄絶なこの闘いを描きます。

映画の舞台は、フロリダ州のフォートビアスという小さな町、そのデラウェア通りと12丁目の交差点です。交差点の片側には、中絶診療所があり、向かいには「妊娠ケアセンター」というまぎらわしい名前をつけた中絶反対派の施設があります。「妊娠ケアセンター」の目的は、中絶を希望する人を思いとどまらせることで、人々が中絶クリニックと勘違いして連絡してくるのも計算ずみです。センターの目的と機能を違法にならないぎりぎりまでわかりにくくして活動しています。一方、お向かいのこじんまりとした中絶診療所は、中絶反対派の激しい攻撃におびえながら運営されています。中絶医の身元がわかると悪質ないやがらせにあいかねないことから、クリニックに出入りする医師は顔がわからないようよう頭に袋をかぶり保護されます。それでも、反対活動家たちは医師の身元をつきとめようと、クリニックが医師を送迎する車を追跡します。

このドキュメンタリー撮影中の2009年にも妊娠中絶手術で知られていたカンザス州の産婦人科医のティラー医師が教会での日曜礼拝中に射殺されるという衝撃的な事件が起きました。中絶手術をおこなっている現役の医師のほとんどが50~60歳代であることから、中絶クリニックでは後継者の確保にも頭を痛めています。 異色ドキュメンタリー『デラウェア通り12丁目』は、中絶クリニックと妊娠ケアセンターの両方で起きている日々のできごとを具体的に描き、米国の重要な社会問題の現状を率直に浮き彫りにした意欲作です。作品は、2010年はじめにサンダンス映画祭で公開された後、ピリピリと緊張感あふれるいくつかの上映会を経て同年夏にケーブルテレビ局HBOでオンエアされました。(大竹)

 

*レイチェル・グレイディ(Rachel Grady)・ハイディ・エウィング(Heidi Ewing):12th and Delaware(『デラウェア通り12丁目』)の共同監督。2001年にノンフィクション映画制作会社LOKI FILMSを設立。異色なテーマを率直な切り口で捉えるドキュメンタリー映画作品を共同で制作・監督している。2007年にはペンテコステ教会の子供たちを描いたJesus Camp(『ジーザス・キャンプ』)がアカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞候補作になった。

Credits: 

字幕翻訳:永井愛里/校正:大竹秀子/全体監修:中野真紀子・桜井まり子