米露核軍縮条約の調印は、ほんとうに画期的?
4月7日オバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領は、すでに失効した1991年の第一次戦略兵器削減条約を継承する画期的な核軍縮条約START(新戦略兵器削減条約)に調印しました。双方の核兵器保有量上限を、それぞれ3分の1ずつ削減すると発表されましたが、専門家は算定方式の違いなどを指摘し、この数字は額面通りに受け取るべきではないと言い、実質的な削減率は13%程度という説もあります。「ここ20年で最も包括的な軍縮協定」とオバマ大統領は自負しますが、ほんとうのところはどうなのでしょうか?長年にわたり核廃絶を唱えてきた核軍縮問題の第一人者ジョナサン・シェルに聞きます。
世界中を何度も吹き飛ばせるほどの過剰な米露の核兵器保有量はSTARTが実施されても大して変わりません。世界全体の核弾頭の9割以上を両国が保有する構造が、せいぜい8割程度に下がるくらいです。オバマは5月にワシントンで開催する予定の核不拡散条約再検討会議で指導力を発揮したいところですが、それに向けた米国のメッセージは矛盾しています。
「核なき世界」をめざすのであれば、核兵器は国家の安全保障に重要ではないというコンセンサスが必要です。でも米国は、他国は核兵器は無用だと説きながら、みずからの核戦略見直しにおいては、核兵器の拡散を防止することを最優先とするため、核不拡散条約を破って核兵器を開発する国に対しては核兵器を用いた先制攻撃も辞さないと宣言しています。具体的にはイランと北朝鮮です。両国はたとえ米国に対して先に核攻撃をしなくても、米国から核攻撃される可能性がある。世界最強の国が、2つの弱小国の核開発計画を止めるために、先制核攻撃で脅さなければならないとすれば、イランや北朝鮮のような弱い敵に対してさえ核兵器を使う価値があると言っていることになります。(中野)
*ジョナサン・シェル(Jonathan Schell) 核軍縮提唱の第一人者で、ネイション・インスティテュート研究員。最新著はThe Seventh Decade: The New Shape of Nuclear Danger(『核兵器到来から70年目、新たな危機の形相』)
字幕翻訳:さかまきさきえ/校正:斉木裕明
全体監修:中野真紀子