先進国は援助ではなく「気候債務」を返済せよ

2009/12/9(Wed)
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コペンハーゲンで開かれているCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)では、第一週目から先進国の非民主的なやり方が露呈しました。192カ国からの代表たちが合意点を探って話し合っている間に、開催国デンマークがこっそりと数か国のみで作り上げた秘密の合意文書を準備していたことがガーディアン紙にリークされたのです。その内容は、今後の気候変動交渉において富裕国の発言権を強め、国連の役割はわきに置くというもの。また、2050年の一人当たりの炭素排出量の上限設定に、先進国と途上国のあいだで差をもうけ、富める国の国民は貧国の2倍近いCO2排出が許されるという項目もありました。先進国の排出量削減努力目標と上限枠の設定という二つの目的を一緒にして、途上国にも削減義務を負わせようとする案です。

「電気もないボリビアの先住民が、いったい何を削減するというのでしょう?先進国の人が2台目や3台目の車を持つためにですか?なぜ私たちの学校や病院の建設が、環境対策と天秤にかけられるのでしょう?」と、ボリビアの主席交渉代表アンヘリカ・ナバロは言います。

COP15で、先進国に対し気候変動被害の正当な賠償を求める動きの先頭に立つのがボリビアです。2期目に入ったモラレス大統領は、先進国は「気候債務」を負っていると批判し、汚染国に環境被害の賠償を求めました。人類の共有財である大気圏を先進国が過剰に消費してしまったため、途上国では干ばつや洪水の被害が増え、国民総生産の大きな部分が消えて行きます。この損害に対する賠償が「気候債務」です。途上国は援助ではなく、先進国が義務を遂行し、債務を返済することを求めているのです。

具体的には2017年までに49%の排出量削減が先進国に求められます。でも、それで十分なわけではありません。本来は排出量をゼロにして、不法占有している大気空間を返上し、途上国が発展する余地を与えるべきなのです。でもそれができないのなら、排出削減の未達分は、途上国への資金提供や技術移転によって補うべきだ、とボリビアは主張します。

一方、温室ガス排出削減の決め手とされる森林保護策(REDD)はCOP15で最終合意に達する見込みです。しかしパラグアイ代表のロベラ氏は、現行の提案に否定的です。アマゾンの熱帯雨林を単なる炭素貯蔵庫に変えるような制度だからです。森林には炭素貯蔵の他にも地球生態系の9割の種を養い、先住諸民族の生活を支え、淡水を供給する役割があります。こうしたシステム全体の保護をめざす現地のニーズは、すべてを炭素量だけに還元する先進国側の見方とは大きく隔たります。森林を「世界のもの」にして排出取引の材料にするという考え方は、世界のごく少数の人々のぜいたくを正当化する仕組みに、私たちの森林を利用するものだと、アマゾンの人々は考えます(中野真紀子)

*アンヘリカ・ナバロ(Angelica Navarro)  ボリビアの気候会議交渉団代表

*ミゲル・ロベラ(Miguel Lovera)  パラグアイの気候会議交渉団代表

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字幕翻訳:斉木裕明 校正・全体監修:中野真紀子・付天斉