太平洋の「不沈空母」グアム 米軍基地移設で潰される先住民社会

2009/10/9(Fri)
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沖縄の普天間基地の移転先をめぐって、県内、県外、国外という選択肢が議論されています。国外というのは、太平洋の島グアムです。沖縄から8千人の海兵隊とその家族が移転する計画のこの島では、いったい何が起こっているのでしょうか?

普天間基地の移転問題が浮上したのは1995年の米兵による少女レイプ事件がきっかけですが、辺野古への移転が難航するなかで、ブッシュ政権による米軍再編の一環として沖縄の海兵隊をグアムに移転することが決まり、日本側が移転費用を負担するという合意が2005年に日米間で交わされました。

150億ドルを投じた軍事施設の拡大増強により、全長50kmのこの島を太平洋方面の米軍作戦行動の主要なハブにする構想で、最近最大の軍備拡張計画といわれています。グアム先住民の弁護士ジュリアン・アグオンは、島の人口の2割以上にあたる軍関係者が大量流入する今回の計画は、グアム先住民の生活を大きく圧迫し、取り返しのつかない打撃を与えると言います。

グアムは1898年の米西戦争によって米国が獲得した戦利品です。現在、世界に16だけ残っている国連認定の非自治地域、つまり言葉を変えた植民地の一つです。住民は米国市民ではありながら、連邦の一員とはみなされず、大統領選挙に投票できず、連邦議会に送った代表に投票権はありません。彼らが選ぶことのできない連邦政府が、先住民の土地を賠償もせずに接収して基地を作ったのです。

でも日本にとってのグアムは人気リゾートであり、観光情報サイトを見ても軍事基地のことも、米国の支配のことも出てきません。アグオン弁護士は言います。「私たちは意見を言う機会がなく、米国の言説の中では存在さえしていない。「アメリカの一日が始まる場所」とか、「不沈空母」とかいう、まるで米国の所有物のような言葉遣いが先住民の存在を消し去り、そこに人間が暮らしているのを忘れ去ることを可能にするのです」。軍事基地の一方的な拡張も、マリアナ諸島で行われた60回以上の核実験も、こうした不可視化によって可能になったと言えるでしょう。

グアムの問題は米国の問題ですが、同じことは沖縄についても言えるだろうと思います。日本政府の方針や(それよりも重んじられているらしい)米国政府の意向などではなく、沖縄の住民の声を伝える報道が増えて欲しいものです。(中野)

★ DVD 2009年度 第4巻 「海外に広がる米軍基地」に収録

ジュリアン・アグオン(Julian Aguon)
グアム先住民の活動家グループ「チャモル・ネイション」の公民権弁護士。The Fire this Time: Stories of Life Under US Occupation (『米国占領下の生活』),What We Bury at Night: Disposable Humanity(『夜に埋めたもの 使い捨ての人間たち』)など 3冊の著書がある

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字幕翻訳:中村達人
校正・全体監修:中野真紀子・付天斉