アルンダティ・ロイが語るインド経済成長の犠牲者たち 

2009/9/28(Mon)
Video No.: 
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40分

一つ前のセグメントからの続きです。 インドの首都ニューデリーから、グローバル・ジャスティスを訴える作家アルンダティ・ロイが発売されたばかりの新作について語ります。『民主主義フィールドノート イナゴの襲来に耳をすまして』は、世界最大の民主主義インドで今なにが起こっているのかを詳細に描いています。それを通してグローバル化の時代の「民主主義」の変容が浮かび上がってきます。

インド政府は、国内のテロリスト過激派を掃討するためと称して中央部から西部にかけての森林地帯に軍隊を派遣しています。「共産党マオ派の武装勢力」が潜んでいるとされる森林地帯は、インドで最も貧しい先住民が住む地域です。マオ派から隔離するために、この人たちは政府の建てたキャンプに強制収容されます。収容所に行かない人々は、自動的にマオ派とみなされ、殺してもよいということになります。

いよいよ「貧困層がテロリストと一緒くたにされる」時代がきたのです。しかも掃討作戦の尖兵となる民兵部隊は、収容所に入れられた先住民を訓練したものなのです。インド政府がここまで強引に先住民を立ち退かせようとする理由は、経済開発にかかわっています。

インドはまた、建国以来カシミール地方の軍事占領を続けています。長期にわたる過酷な占領統治はが「パレスチナと違うのは、まだ住民を爆撃していないことぐらいだ」とロイは言います。殺人や失踪や拷問やレイプが横行し、開発や紛争の影で何百万もの人々が犠牲になっています。それにもかかわらずインドは好調な民主主義国として国際社会にもてはやされます。膨大な中産階級をかかえるインド市場の魅力が、忌まわしい暗部をかきけしてしまうのです。

何百万もの弱者を犠牲にして強権的に進められる経済開発と喜んで手を結ぶ欧米の民主主義諸国。グローバル化の中で民主主義そのものが変容しているのだとロイは言います。(中野真紀子)

 

★ DVD 2011年度 第1巻

「巨大市場インド」に収録
☆ このインタビューの全訳は、2010年2月8日発売の雑誌『世界』3月号に掲載されました。翻訳にあたったのは、デモクラシー・ナウ!のメンバーです。

 

アルンダティ・ロイ(Arundhati Roy) 世界的に知られるインドの作家、グローバル・ジャスティスを求める活動家。デビュー作の小説『小さきものたちの神』で1997年のブッカー賞を受賞し、戦争や気候変動やインドにおける自由市場主義の発展の危険性に警鐘をならす論考を数多く発表している。番組が放送された9月28日に新作Field Notes on Democracy: Listening to Grasshoppers.(『民主主義フィールドノート イナゴの襲来に耳をすまして』)が発売された。 序章部分は、 こちらで読めます→ http://www.tomdispatch.com/post/175119/arundhati_roy_is_democracy_melting

Credits: 

字幕翻訳:桜井まり子/校正:大竹秀子 全体監修:中野真紀子・付天斉