ナオミ・クライン 「マイノリティのデスマッチ オバマ時代の人種問題」
一年ほど前には、初の黒人大統領誕生の陶酔感の中で、米国は「ポスト人種」の時代に入ったといわれました。しかし数ヶ月後にはソトマイヨール判事の最高裁判事任命問題を皮切りに、なりを潜めていた人種問題がいっせいに噴き出しました。ハーバード大学のゲイツ教授を本人の自宅で逮捕した白人警官の「愚行」を指摘した大統領が逆に非難され、最優先課題の医療保険制度改革さえ人種問題にからめて非難されました。
オバマ政権の足をひっぱるために利用される根深い人種対立の背景には、奴隷制の過去を精算できない米国の病理があるようです。オバマ政権が抱える厄介な人種対立の現状について、「マイノリティのデスマッチ:ユダヤ人、黒人、そしてポスト人種社会の大統領」という記事を発表したナオミ・クラインに聞きます。
クラインの記事は2009年4月にジュネーブで開かれた世界人種差別撤回会議を考察したものです。この会議は、2001年に南アフリカのダーバンで開かれた第1回人種撤廃会議の成果を検証するための「ダーバン見直し」会議でした。ダーバン会議は奴隷制と植民地支配の犯罪性を問う画期的な会議でしたが、奴隷制に対する謝罪と賠償をめぐって紛糾し、さらにシオニズムが人種差別であるという宣言をめぐってイスラエルと米国が離脱する事態になりました。なんとか宣言を採択して閉会したものの、直後に米国で9.11テロ攻撃が起こったため、その意義が十分に論じられないまま影に埋もれてしまった感があります。
今回のレビュー会議でも、イスラエルを不当に標的にしているとして、米国が直前に出席を拒否し、その後は堰を切ったようにボイコットが相次ぎました。今回もまた、奴隷制が残した禍根への対応など、同会議で取り組む予定だった肝心な問題を避ける口実として、イスラエル非難の議論が利用されたようです。残念な結果に終わりましたが、ダーバン会議の画期的な意義を今一度おもい出すのもよいかなあと思います(中野)
ナオミ・クライン Naomi Klein トロント在住のカナダ人ジャーナリスト。『ブランドなんか、いらない』、The Shock Doctrine (『ショックドクトリン』)などの著者。トロント国際映画祭のテルアビブ特集に抗議する「占領を祝うな」キャンペーンの呼びかけ人のひとり
字幕翻訳:桜井まり子
校正・全体監修:中野真紀子・高田絵里