共和党のゴモラ 党を破壊した運動の内幕

2009/9/4(Fri)
Video No.: 
2
25分
50年前マッカーシー議員や極右団体から攻撃されたアイゼンハワー大統領は、「彼らはそんな資格も専門知識もないのに、ただ騒ぎ立てることで意見を押し通そうとする」と党内の急進派の台頭を懸念しました。今の共和党の状況を不気味なほど言いあてていると、マックス・ブルーメンソールは語ります。共和党はキリスト教右派に乗っ取られてしまい、アイゼンハワーの共和党はいまやサラ・ペイリンの党になったのです。
ブルーメンソールは著書『共和党のゴモラ』で、キリスト教右派が大衆的な政治運動に発展したいきさつを紹介しています。特に大きな影響を持った人物として、神学者ラッシュドゥーニを挙げています。憲法を廃止し神の意思で統治すべきだと主張し、これを「約束の地」の青写真として米国の福音派に政治目標を与えました。1960年代に公民権運動を目の敵にしていたジェリー・フォルウェルなどに影響を与えたとされます。もう1人のキーパーソンはフランシス・シェイファーで、1970年代はじめに人工中絶が合法化されたことに危機感を持ち、人種隔離より中絶反対が先だと福音派に呼びかけ始めました。これがフォルウェルの団体「モラルマジョリティ」設立の引き金となり、やがて福音派が共和党の最大支持基盤になる素地をつくります。シェイファーは大物議員にも中絶問題が重要だと吹き込み、政界への伝道師と呼ばれています。中絶医の暗殺も起こるようになりました。
米国のキリスト教右派でいま最も影響力があるといわれるのがジェイムズ・ドブソンです。彼のラジオ番組は米国第3位のリスナーを誇り、団体支部は全米36カ所、資産も莫大で、2004年の大統領選挙でブッシュを当選させたといわれています。サラ・ペイリンはドブソンのお気に入りで、それが2008年の選挙で共和党の大統領候補に指名されたマケイン議員が彼女を副大統領候補に起用した理由でした。マケインは福音派を批判して反発を招いたので、彼らを取り込んで党内の地盤を固めるためには他に手がなかったのです。
とはいえサラ・ペイリンは運動の指導者ではありません。キリスト教右派の運動には特定の政治指導者はおらず、イデオロギーや思想体系もない、特定のメンタリティを共有するだけの烏合の衆です。この人たちに引き回される、今や野党の共和党には超党派を呼びかけるオバマ大統領に応える余地がなく、どんな法案にも全く歩み寄りを見せません。とくに医療改革法案には反対です。個人の危機と救済を利用して勢力を伸ばし、栄えてきたてきたキリスト教右派は、国民の危機を政府が解決するのを怖れています。米国で個人の日常に起こる危機は多くの場合医療問題に関連していますが、それを政府の手で解決されては、ドブソンたちは困るのです。(中野)

★ DVD 2010年度 第2巻

「キリスト教右派」に収録
*マックス・ブルーメンソール(Max Bltent philosophy of the Republican umenthal)ジャーナリスト。ネイション・インスティテュートのフェローで、Republican Gomorrah: Inside the Movement that Shattered the Party(『共和党のゴモラ 党を破壊した運動の内幕』)の著者。
Credits: 

字幕翻訳:桜井まり子/全体監修:中野真紀子