パラグアイ大統領に「貧者の司祭」フェルナンド・ルゴ当選

2008/8/19(Tue)
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2008年4月20日、中南米の中心部に位置するパラグアイで、フェルナンド・ルゴ元司教が大統領に選出されました。1946年以来一貫して政権を握り続けた保守派コロラド党は下野し、8月15日に新大統領の就任式典が執り行われました。パラグアイは人口650万人の大部分を先住民と欧州系の混血が占め、国民の9割が、スペイン語と並ぶ公用語であるグアラニー語を理解する異色の国です。他の中南米諸国とおなじようにパラグアイでも、コロラド党のアルフレド・ストロエスネル将軍の軍事独裁者 (1954年~1989年)が終った後も一貫して富裕層を優先する政策が採られた結果、軍を背景にした大土地所有者と多国籍企業によって農民が土地を奪われ、特に人口の2%未満を占める先住民は貧困に喘いできました。

解放の神学の影響を強く受けたルゴ氏は、長年にわたって農民運動に関与し、「貧者の司教」と呼ばれました。伝統的な右派政党から中小の左翼政党までを糾合した「変化のための愛国同盟」の統一候補となったルゴ氏は、司教職を辞して選挙に臨み、過半数は取れなかったもののコロラド党に10%以上の差をつけて勝利したのです。ルゴ氏は大統領就任早々、先住民のマルガリータ・ムビワンギ氏を先住民問題担当大臣に任命しました。先住民として初めてこのポストに就任したムビワンギ氏は、少女時代にジャングルで誘拐され、富裕な農場主の間で奴隷として売り買いされましたが、後に先住民の権利と土地回復をめざす社会運動家となった、波乱の経歴の持ち主です。

ルゴ氏の大統領就任により、ラテンアメリカの左翼回帰の傾向は一層鮮明になり、特に南米ではペルーとコロンビアを除くすべての国で、左派ないし中道左派と目される指導者の下で米国従属から脱しようとする政治・社会改革が進められています。しかし一言で「左派」といっても、その傾向は様々。番組ではニューヨーク大学のラテンアメリカ史教授グレッグ・グランディン氏を招き、パラグアイの歴史と新政権が抱える課題、また中南米の「左派」諸政権が目指すものについてお話を伺います。

グランディン教授は、ルゴ大統領が掲げた、①政治改革と腐敗の一掃、②水力発電に関するブラジルおよびアルゼンチンとのダム事業契約の見直し、③農地改革、の三つの公約のうち、農地改革について与党は分裂しており、その成否が政権の消長を左右すると分析するグランディン教授。早くも9月4日には、ニカノル・ドゥアルテ[Nicanor Duarte]前大統領を首謀者とする軍部のクーデター計画があったとルゴ大統領が発表しており、政権の行方は楽観を許しません。(斉木裕明)

*グレッグ・グランディン(Greg Grandin) ニューヨーク大学ラテンアメリカ史教授。Empire’s Workshop: Latin America, the United States, and the Rise of the New Imperialism(『帝国の作業場-ラテンアメリカ、米国、新帝国主義の勃興』)の著者

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字幕翻訳:斉木裕明/校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子・高田絵里