ダルフールの虐殺を終わらせるために 前編
2006年に日本でも公開され、大きな反響を呼んだ映画『ホテル・ルワンダ』。100日で100万人が虐殺されていく中で、1200人の命を1人のホテル支配者が救うストーリーでした。その主演俳優ドン・チードルが、スーダンのダルフールでの虐殺に対しても、社会に関心を呼びかけています。議員団に誘われてスーダンを訪れた彼は、さっきまで4000人が生活を営んでいた村が、あっという間にスーダン政府支援の民兵に一掃されてしまう様子を目の当たりにし、ジョン・ペンタガスと一緒にNot On Our Watch: The Mission To End Genocide In Darfur And Beyond(『見殺しにはしない-ダルフールの虐殺を終わらせる任務』)を執筆しました。
ダルフールで行なわれていることを「虐殺」だと正式認定したからには、ブッシュ政権はもっと具体的な手を打つべきだと、2人のゲストは強調します。更にジョンは、スーダン政府がアルカイダをかくまっていた時期にテロリストの個人情報を多く握ったため、それを対テロ戦争に使いたいアメリカ政府は、スーダン政府に対して強い態度を示せないでいるのだと指摘しています。
一方で、中国の責任も厳しく問われています。スーダン産の石油は、中国系の会社が70%を購入しているため、ダルフールの平和を求めて活動する人たちは、そういった石油会社の株の売却を呼びかける「ダイベストメント運動」を展開しています。若者も精力的に参加していて、例えばカリフォルニア州立大学の学生たちは、7つのキャンパス全体で持ち株を売り払う成果を挙げたそうです。
アメリカは、5月末にはスーダン企業30社をアメリカ市場から締め出すなどの経済制裁を発動。6月5日には、ダルフール虐殺を黙認し、兵器も売却し、経済活動を支えている中国に対して、下院が抗議決議案を可決しました。それに対して中国は、「ダルフールで起こっていることは、貧困からくる水や土地の争いであり、その解決のためには、国際社会が開発に協力しなくてはならない」と述べています。
アラブとアフリカの民族対立を利用した争いに、対テロ戦争の利害関係と石油利権が絡まった泥沼、ダルフール。国際刑事裁判所は、そして国際社会の良心は、どこに解決の糸口を見出せるのでしょうか。(文:古山葉子)
* ドン・チードル(Don Cheadle) 俳優。『ハンバーガー・ヒル』や『カラーズ/天使の消えた街』などの問題作に出演。98年にはTVドラマ 『ラット・パック/シナトラとJFK』でゴールデン・グローブ助演男優賞を受賞。そして04年には、『ホテル・ルワンダ』での迫真の演技で、アカデミー主演男優賞にノミネートされた。
ジョン・ペンダーガストとの共著にNot On Our Watch: The Mission To End Genocide In Darfur And Beyond(『見殺しにはしないーダルフールの虐殺を終わらせる任務』)。
* ジョン・ペンダーガスト(John Prendergast) 紛争の予防・解決に取り組むNGO「International Crisis Group(国際危機グルー プ)」の上級顧問。ENOUGH(もうたくさん)キャンペーンのリーダー。クリントン 政権時代にはホワイトハウスおよび国務省に勤め、アフリカ関連問題を担当した。 アフリカの紛争地域をしばしば訪れている。
翻訳・字幕:石川麻矢子 高田絵里
全体監修:古山葉子