反米すすむラテン・アメリカ 前編 チャベスからブッシュへ「アメリカ野郎 帰れ」

2007/3/12(Mon)
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 今、中南米で異変が起きています。

 アメリカにNOを突きつける国が増え、しかも力をつけてきているのです。

 アメリカは、1823年にモンロー主義をかかげて以来、ラテンアメリカを「アメリカの裏庭」として支配力を保持し、経済的にも政治的にも大きな影響力を持ち続けてきました。アメリカと親米政権の間で取り交わされてきた新自由主義経済の結果、激しい貧富の差が生まれ、深刻な問題となり続けてきました。そこに不満を募らせ、貧困層にも富を分配しようという勢力が出てくると、アメリカは「危ない共産主義国を民主化する」という謳い文句で反政府ゲリラを組織・支援し、経済封鎖も行なったりして、それらの勢力の抑制におおむね成功してきました。

 ところがここにきて、べネズエラが突きつけたNOを、アメリカが簡単には翻せない状況が起こっているのです。

 先住民の血を引くウゴ・チャベスは、「貧民の救済」を掲げて1998年のべネズエラ大統領選で圧勝しました。それまでのベネズエラでは、石油の利権を手にしている一部の人は大統領の20倍もの給与を受け取るほどの富裕層。大多数の極貧層との貧富の差が激しく、「王様と物乞いの国」と呼ばれていました。そこにメスを入れたチャベス大統領は、国家収入の7割を占める石油の収入を貧しい人々の生活支援に向け、教育、医療、農地改革、職業訓練などの政策を充実させました。アメリカから支援を受けた反政府勢力が2002年にクーデターを試み、チャベスは海軍基地に監禁され、処刑を免れないかと思われましたが、市民が激しい抗議行動を展開し、他の中南米諸国もクーデターをなかったため、クーデターはわすか30時間で失敗に終わりました。

 その後のチャベス人気は圧倒的。また、ボリビア・ニカラグア・エクアドルでも、チャベス大統領に近い左派政権が次々と誕生し、アメリカもその力を認めざるを得なくなりつつあります。また、政治的にも、アメリカの「テロとの戦い」に堂々と反対する姿勢もみせる国が多数出てきており、アメリカと中南米諸国との関係図が、急激に変わりつつあると言えるでしょう。

 アメリカの影響力を挽回しようとするかのように、ブッシュ大統領は3月8日から13日まで中南米を歴訪しました。ところが、その影を追うかのように、チャベス大統領もまた、同時期に中南米諸国を回りました。ブッシュがウルグアイに着けばチャベスは隣国アルゼンチンへ、コロンビアへ行けばボリビアへ、グアテマラへ行けば隣国ニカラグアへ。そして、圧倒的多数を占める貧困層を中心に、ブッシュへの抗議行動も、各地で大規模に繰り広げられました。

 今回ご紹介するTOPICSでは、ブッシュ大統領がウルグアイ訪問中にチャベス大統領がアルゼンチンで行なった演説を紹介します。「北中南米は、ワシントンとシモン・ボリバルの子」としたブッシュ大統領の演説を痛烈に批判し、「北米人のための北米、南米人のための南米、それが私たちのアメリカ大陸のありかただ」と力説。中南米が「アメリカ合衆国の中庭」扱いされることを強く拒否しました。後半では2人のラテンアメリカ研究者に登場していただき、ブッシュ大統領の中南米歴訪の目的、アメリカの中南米政策の歴史と未来などを解説していただきます。

 アメリカの政策によっては、すぐに火種となってしまうラテンアメリカ。アメリカ政府が掲げる戦争に追従しがちな日本に生きる私たちにとって、その火種の背景を日ごろから理解しておくことは、重要な意味を持つと思います。また、アメリカとの関係構図が世界的に変化しつつある今日、日本がどのような立場を取っていくべきかを考える上でも、たいへん興味深いTOPICSです。ぜひご覧ください。(古山葉子)

* グレッグ・グランディン NY大学にて、ラテン・アメリカ史教授。著書に『帝国のワークショップ:ラテンアメリカ、アメリカ合衆国、そして新帝国主義の勃興』『グアテマラの血:民族と国の歴史』など

* スティーブン・エルナー 1977年よりベネズエラのプエルト・ラ・クルズにあるオリエンテ大学にて政治学を教えている。ベネズエラ関連の著作は多数あり、近刊に『ベネズエラ:ウゴ・チャベスと異例な民主主義の衰退』

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字幕・翻訳:甘糟智子 校正:古山葉子
全体監修:中野真紀子