あれから40年 タリク・アリの「ストリート・ファイティング・イヤーズ」
英国で活躍する作家タリク・アリはベトナム戦争最盛期の1960年代に、ヘンリー・キッシンジャーや英外相(当時)マイケル・スチュワートと行った討論で、アメリカで一躍有名になりました。彼はベトナム反戦運動に身を投じ、1968年ロンドンの米国大使館前で反戦抗議デモで指導的役割を演じました。革命新聞Black Dwarfの編集を通じて、ストークリー・カーマイケル、マルコムX、ジョン・レノン、ヨーコ・オノなど大きな影響力を持つ人々と親交を結びました。40年後の今、アリは「ニューレフト・レビュー」誌の編集者を努め、作家として活躍するかたわら、米国の外交政策への批判を唱え続けています。1968年を世界的な視野から語ってもらいました。
アリは1968年1月末ベトナムで起こった「テト攻勢」を一連の出来事の最初に置きます。南ベトナム政府に対抗する勢力が全土で攻撃をしかけ、サイゴンの米大使館を短時間にせよ占領した事件は、世界に刺激を与えました。イギリスではベトナムの解放運動に連帯を表明するため、3月にロンドンの米国大使館の占拠をめざしたデモが起こり、警察と衝突して大きな事件となりました。数ヵ月後に起こったフランスの学生蜂起とゼネストは、シラク政権を大きく動揺させヨーロッパ中を震撼させました。
フランスの動乱は共産圏にも波及し、チェコスロバキアでは共産党の改革派が民主的な「人間の顔をした社会主義」をめざす改革を打ち出しました。「プラハの春」と呼ばれるこの自由化運動が他の国々にも拡大することを恐れたソビエト連邦は、ワルシャワ条約機構軍の戦車を差し向けてこれを弾圧しました。
忘れがちなのは、第三世界にも大きな抗議運動が広がっていたことです。オリンピック開幕直前のメキシコでは民主化を求める学生の抗議が政府によって暴力的に鎮圧され、数百人の死者を出すことになりました。年末にはパキスタンでも民主化を求める学生蜂起が起こり、労働者やホワイトカラーも巻き込んで3ヶ月におよぶ社会闘争に発展しました。
このような解放運動の波が世界的な広がりをみせた1968年について、アリはその成果と限界を論じ、イラク戦争への反対運動が一時的な盛り上がりの後消滅してしまったこととの比較をおこない、40年後の今の状況を考えます。(中野)
★ ニュースレター第6号(2008.12.10)
★ DVD 2008年度 第2巻 「1968年と今」に収録
タリク・アリTariq Ali, 英領インド(現パキスタン)に生まれ、イギリスで教育を受けた著名な評論家、作家、活動家。『ニューレフト・レビュー』の編集者の1人。60年代の回想録Street Fighting Years: An Autobiography of the Sixties(『街頭デモの日々 わたしの60年代』)をはじめ著書多数
字幕翻訳:桜井まり子/全体監修:中野真紀子