ホンジュラスのクーデターの背景をたどる
6月末に起きたホンジュラスのクーデターは、中南米の歴史を見てきた人にはおなじみの光景だったかもしれません。民主的に選ばれたマヌエル・セラヤ大統領が軍部のクーデターにより国外追放されました。それを率いたロメオ・バスケス将軍は、米国の陸軍教練機関スクール・オブ・ジ・アメリカズ(SOA)で訓練を受けていました。
SOAは現在は名称を変えてWINSECと呼ばれていますが、これまで6万人以上のラテン・アメリカ諸国出身の軍人を訓練してきました。その多くは祖国に戻って人権蹂躙や拷問、裁判なしの死刑執行や大量虐殺などに関わっています。この悪名高い軍事訓練学校を監視する団体SOAウォッチによると、バスケスは1976 年から84年までSOAに所属していました。同じくホンジュラス空軍のトップであるルイス・ハビエル・プリンス・スアソ将軍も96年に同校で教練を受けています。
追放されたホンジュラス大統領マヌエル・セラヤと今回のクーデターについて、『革命!南米と新左翼の台頭』の著者ニコラス・コズロフに聞きます。セラヤはもともと特権階級出身の実業家で、当初は保守的な姿勢が目立ちました。しかし、2007年以降、中南米全体に左翼的な傾向が顕著になると、セラヤもその流れに乗り、革新的な立場を取り始めました。
ベネズエラのウゴ・チャベス大統領への支持を表明し、ホンジュラスにおける強力な既得権益に戦いを挑むようになったセラヤは、「ここ数年、彼はホンジュラスの上流層と政治的に反目し、近隣諸国では最も厳しく米国政府を批判するようになっていた。オバマが裏で画策したわけではないにせよ、ホンジュラスのクーデターはこの地域の地政学的な緊張の高まりを象徴している」とコズロフは書いています。
米政府はクーデターを非難し、ホンジュラスへの援助を一部打ち切ると表明しましたが、そこに軍事援助は含まれません。一方、中南米諸国の多くは団結してホンジュラスのクーデターに反対し、追放されたセラヤ大統領の帰国を要求しています。クーデターによる新政権が国際的な孤立化を深める中、はたしてこれまで繰り返されてきたクーデターとは異なる展開になるのでしょうか?(中野真紀子)
ニコラス・コズロフ(Nikolas Kozloff):ジャーナリスト, evolution!: South America and the Rise of the New LeftR(『革命! 南米と新左翼の台頭』)の著者。他にHugo Chávez: Oil, Politics and the Challenge to the U.S(『ウゴ・チャベス 石油、政治、米国への挑戦』)などの著作がある。ブログはsenorchichero.blogspot.com
フアン・アルメンダレス(Juan Almendares)ホンジュラスの医師、人権活動家。ホンジュラス・ピース・コミッティーの代表。前回の大統領選挙で野党の民主統一党から立候補した。
ロイ・ブルジョワ神父(Father Roy Bourgeois,) 米国の陸軍軍事訓練学校SOAの監視活動を行なう団体「SOAウォッチ」の創設者。
字幕翻訳:玉川千絵子/校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子・高田絵里