アニマルライツ運動はテロリズム? 国家安全保障を隠れ蓑にする産業界

2014/3/25(Tue)
Video No.: 
3
16分

神戸女学院大学翻訳チームのみなさんが、デモクラシー・ナウ!の動画に字幕をつけてくださいました。これは大学院生の方々の共同制作ですが、とってもお上手。字幕翻訳もカリキュラムに入っていて、けっこう人気の授業だそうです。これからが楽しみですね。

さて、彼女たちが取り上げてくれたのは、オバマ政権の秘密主義に敢然と立ち向かう情報公開法(FIOA)のスーパーヒーロー、ライアン・シャピロのインタビューです。オバマ大統領は2009年の就任直後には「開かれた政府」の理念を掲げ、情報開示に努め政府の透明性を高める方針を打ち出しましたが、この約束も例によって口先だけに終わり、現実には機密指定される政府文書が増え、情報公開は後退しています。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院生ライアン・シャピロは、1962年のネルソン・マンデラ逮捕において米国政府が果たした役割に関係する公文書の開示を要求しています。マンデラはこの後27年を獄中で過ごすことになりました。南アフリカで反アパルトヘイト運動を率いるマンデラを、なぜ米国の諜報機関が米国への脅威であるとみなし、人種の平等と民主主義を求める運動のじゃまをしたのか、シャピロは知りたかったのです。そこで最初はNSAに対して情報公開法(FIOA)に基づく開示請求をしたのですが、あっさり却下されてしまいました。「請求されたネルソン・マンデラ関連の情報は、そのようなものが存在するかどうかも含めて現時点では機密事項に指定すると決定した」のだそうですが、半世紀も前の事件に、どんな国家安全保障上の懸念があるというのでしょう? 

そこでシャピロは今度は連邦裁判所に提訴し、FBI、CIA、NSAに対し情報開示を求めました。そこまで食い下がるのは、「国家安全保障」という観念が、軍事同盟や企業の利益を個人の基本的人権や市民の自由に優先させるために利用されていると考えているからです。

シャピロがそう考えるに至ったのは、動物の権利を訴えるアニマルライツ運動にかかわっているため、活動家に「テロリスト」のレッテルをはる政府のやりかたで直接の被害を受けるからです。彼は2002年、市民的不服従の実践として、フォアグラを生産する農場に忍び込み、工場化された畜産場のおぞましい環境を世間に公開しました。虐待された鳥たちを救出する(盗み出す)顛末を映画にしたりして社会問題化することに成功したのです。でも実際に犯罪行為をおかしたわけですから有罪となり、40時間の社会奉仕活動を命じられました。とはいえ窃盗や住居侵入など重罪の求刑を覚悟していたのに比べれば、予想外の軽い罰でした。

でも業界は震え上がったようで、この事件以来、農業関連の内部告発を禁止する法律(Ag-Gag laws)が米国の各州で次々と制定されていきました。それらはアニマルライツ運動をテロリズムと同一視し、途方もない重罰を科すものです。さらには連邦レベルでも、愛国法の流れを汲む反テロ法のAnimal Enterprise Terrorism Act(動物企業テロリズム法)が2006年に成立し、アニマルライツ活動家は安全保障上の脅威とみなされるようになりました。

MITで準備中のシャピロの学位論文は、国家安全保障関連の機構や表現技法が動物保護活動家を社会的に無力化するために利用されるというパターンが、19世紀末からずっと続いてきたことを追究しています。彼の研究手法は公文書を多用するもので、FBIに対し700件近い情報開示請求によりおよそ35万通の文書を請求して、司法省から「情報請求数ナンバーワン」のお墨付きをもらいました。FBIはシャピロが執筆中の博士論文の一部を国家安全保障上の脅威であるとみなしているそうです。

動画はインタビュー後半の、アニマルライツ運動家に関係する部分です。食料生産の大規模企業経営化が進み、加工食品の割合も増え、私たちは次第に日常の食材がどこから来るのか、どのように生産されるかについて知ることができなくなっています。どうやらその裏には、何を食べているのかを消費者に知らせたくない食品業界の積極的なロビー活動があり、国家安全保障を口実に食物を選択する自由まで奪われつつあるようです。政府の秘密主義が強まることの背後には軍事や外交とはまったく別次元のファクターも働いているというわけですね。(中野真紀子)

*ライアン・シャピロ(Ryan Shapiro)アニマルライツ運動家。米国情報公開法(FIOA)をもとに政府公文書を入手する技術に優れていることから"FOIAスーパーヒーロー"と呼ばれる。 現在NSAやFBIなどの連邦機関を相手取り、FOIAにしたがって故ネルソン・マンデラ南ア大統領に関する公文書を開示するよう裁判所に提訴している。マサチューセッツ工科大学に提出予定の博士論文"Bodies at War: Animals, Science, and National Security in the United States"のため、アニマルライツ運動をめぐる数万通の公文書をFBIから入手している。

Credits: 

神戸女学院大学翻訳チーム 
字幕翻訳:住本 真衣香、豊島 知穂、福田 真奈、灘野 貴子、山本 真佑花、仲埜 由紀、渡辺 玲子
校正:田辺 希久子、小倉 峰子