インドネシアの元独裁者スハルトが死去

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放送日: 
2008/1/28(月)

約1万7000の島からなり、世界第4位の人口(約2億5000万人)を擁する多民族国家インドネシア。石油や天然ガス、銅、スズ、ボーキサイトなどの豊かな天然資源に恵まれたこの国を32年にわたって支配したスハルト元大統領が2008年1月27日、病気で死去しました。多くのメディアが、スハルト元大統領の死に際し、その功績を積極的に評価する論調の記事を掲載しました。スハルトの永年にわたるインドネシア支配は、本当のところ、何をもたらしたのでしょうか。

このセグメントでは、インドネシアの人権活動家ガルー・ワンディタ、スハルトの死をインドネシアで取材した米国のジャーナリスト、アラン・ネアン、米国の東ティモール関係外交の専門家でメリーランド大学の助教授ブラッド・シンプソンが、スハルトがインドネシアにもたらしたもの、スハルトの死に対する人々の反応、米国とスハルトの関係について語ります。

スハルト氏は、1965年の登場以来、米国や日本、西欧の政治家やメディアから大きな賞賛を浴びてきました。1966年、スハルト登場直後、ニューヨーク・タイムズ紙のジェームズ・レストン記者はスハルトを「アジアにおける一筋の光」と述べていますし、1993年にはやはりニューヨーク・タイムズ紙のフィリップ・シェノン記者が「隠れた巨人」、「インドネシアでは多くの人々の生活が向上」と書いています。

日本の橋本元首相は、1998年にスハルト大統領が辞任を表明した際、「インドネシアの発展および同国の国際的地位の向上のために偉大な業績を残した」、「日イ関係の強化やアセアン、アジア太平洋経済協力会議(APEC)で果たした役割など、偉大な業績に歴史的な感慨を覚える」と語り、駐インドネシア米国大使カメロン・ヒュームは、スハルト元大統領の死に際し「歴史的人物だった」と声明を発表しています。

実際には、スハルト政権の32年間は、虐殺と略奪、汚職の時代でした。1965年、スハルトが政権の座につくとき、数十万人から百万人が殺され、川は遺体で溢れたと言われています。この虐殺は、スハルト軍事独裁体制の中で、隠され続けてきました。1975年に米国の後押しを受けた東ティモール侵略と、その後、1999年まで続く不法占領の中で、東ティモール人20万人が命を奪われ、アチェや西パプアをはじめ、インドネシアの各地で、軍による弾圧と虐殺が続きました。

スハルト独裁政権下で、西側の大国は、インドネシアの富を全面的に略奪します。スハルトが政権について2年後、タイム・ライフ社の主催で、3日間にわたる会議がジュネーブで開催されました。この会議では、米国で訓練を受けたスハルトの経済顧問が、インドネシア産業を西側企業に一つずつ、手渡していきました。西パプアの銅山はフリーポート社に、ボーキサイトはアルコア社に、スマトラの熱帯雨林は、米国と日本、フランスの企業に。独立を遂げたとき、インドネシアと隣国マレーシアはほぼ同じ発展状況にありました。現在、インドネシアの賃金はマレーシアの6分の1です。軍による人権侵害も続いています。

25年近くインドネシアの不法占領下に置かれていた東ティモールは、主権は回復したものの、貧困や不安定な政治状態に現在も悩まされています。スハルトは亡くなりましたが、膨大な負の遺産は今も残されています。

文:益岡賢(東京東チモール協会、チモール・ロロサエ情報ページを共同で運営)

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ゲスト

*ガルー・ワンディタ(Galuh Wandita) インドネシアと東ティモールで長年活躍してきた人権活動家。移行期司法国際センターのジャカルタ理事。元東ティモール真実和解委員会の副理事

*アラン・ネアン(Allan Nairn) 長年インドネシアをカバーしてきた調査報道ジャーナリスト。ブログ“News and Comment" (newsc.blogspot.com)を運営

*ブラッド・シンプソン(Brad Simpson), ジョージ・ワシントン大学に所在するアメリカ国家安全保障アーカイブのインドネシアならびに東ティモール記録プロジェクトの責任者。ボルティモア州メリーランド大学の米国史・国際関係学の准教授でもある。著書 Economists with Guns: Authoritarian Development and U.S. – Indonesian Relations, 1960-1968が近刊予定。

字幕翻訳:斉木裕明 / 全体監修:中野真紀子

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