アナポリスから中東平和は生まれない 頼みは民衆の連帯のみ ノーム・チョムスキー

2007/11/27(Tue)
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 2007年11月27日メリーランド州アナポリスで米国主導の中東和平会議が開催されました。それに先駆けて開かれたイスラエル=パレスチナ紛争に関するキリスト教聖公会系の会合で、世界を代表する2人の思想家が話しました。南アフリカ聖公会の元大主教でノーベル賞受賞者のデズモンド・ツツと、世界的に著名な言語学者のノーム・チョムスキーです。

チョムスキーによれば、和平への最大の障壁は、パレスチナ人の領土を占領し、違法な入植政策を続けているイスラエル政府の政策を、米国が支援していることだと述べます。この二者を除く世界のほとんどが、国連決議242に沿ってパレスチナを分割し、パレスチナ人にも独立国家を与える「二国家解決」を基本的には支持しています。アラブ連盟もハマスも、イランも、残りの世界もそれを支持していると彼は述べます。

では、和平を阻むこの二国に対して、私たちに何ができるのか? チョムスキーはここで南アフリカの例が参考になるといいます。かつて南アフリカのアパルトヘイトに対しては、国連安保理が早い時期に制裁措置を決議しました。しかし、米国が南ア政府を支持していたため、国連レベルの制裁は効き目がありませんでした。本当に効き目を発揮したのはそのずっと後になって80年代末に起こってきた民衆レベルの反アパルトヘイト運動によるボイコット運動です。これが成功したのは、活動家による教育や組織化を通じてアパルトヘイトの問題が民衆に浸透し、多くの人を巻き込む運動の土台ができていたからだとチョムスキーは述べます。

では現在のイスラエル=パレスチナ紛争に、このようなボイコット運動は有効でしょうか?「否」とチョムスキーは答えます。大衆的な運動の土台ができていないからです。「パレスチナ人に対する犯罪は、あまりにショッキングなものであり、感情的にそれに見合った反応は、激しい怒りの表明と、強硬措置を取れという要求でしょう。しかし、それは犠牲者を救うことにはなりません。それどころか、犠牲者にさらなる危害をもたらしかねないものです。私たちが直接的、決定的に関与しているそれらの恥ずべき行為を前にして平静を保つことは困難かもしれません。しかし、私たちの行動には結果が伴うのだという現実を直視し、私たちは現実世界の状況に対応して行動しなければなりません」。教育と組織化を通じた地道な働きかけによって、連帯の基盤を築くことだけが、将来においてイスラエ=パレスチナ紛争に解決をもたらすことができるとチョムスキーは語ります。(中野)

*ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky) マサチューセッツ工科大学(MIT)言語学名誉教授。言語学者としては1950年代に生成文法の提唱で言語学に革命をもたらしたことで有名だが、60年代にベトナム戦争に反対して政治活動に乗り出し、社会思想家、政治活動家としても合衆国の左派を代表する人物の一人となった。関連と米外交政策関連の著作ともに膨大な数に達する。メディアに関してもエドワード・ハーマンとの共著があり、その思想と生涯がカナダの記録映画「ノーム・チョムスキーとメディア」に詳細に描かれている。 

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翻訳字幕:桜井まり子
全体監修:中野真紀子