ブログ:「王子様は二の次」ディズニープリンセスを描く自主制作ビデオが大ヒット中

マーティン・チエ
ニューヨーク便り
「王子様は二の次」ディズニープリンセスを描く自主制作ビデオが大ヒット中

YouTubeで、22,400,000(2240万回)というセンセーショナルな視聴回数を記録したミュージカルビデオ、『Frozen:A Musical feat. Disney Princesses』。ディズニーの大ヒット作が下敷きです。制作したのは、ニューヨーク在住、23歳と20歳の兄弟クリエイター・ドゥオ、AVByte(AVバイト)。撮影舞台の、「Morris-Jumel Mansion」は、1765年に建てられ、マンハッタンの中で一番古いといわれています。

◼ 原作:大ヒットディズニーアニメ映画「アナと雪の女王」

ディズニーアニメ史上、空前の大ヒットとなった映画『アナと雪の女王(原題は、Frozen)』。日本での興行収入が、すでに100億円を突破したという大反響ぶりです。「アナ」の姉であるもう一人の主人公、プラチナ・ブロンドヘアーの「エルサ」のキャラクターが、王子様(男性)からのプロポーズを求めていないところや、物語上でも男女の愛に限らない多様な愛の形を認めるメッセージが込められていることから、「最もプログレッシブなディズニー映画」との評価もありました。現代的なジェンダー観を反映し、「自立した女性の生き方」を描いてフェミニズム的な面での評価も強く意識した作品だといわれています。オスカーを受賞した主題歌「Let It Go~ありのままで〜」は、LGBTのアンセム・ソングになっているといわれるほどの反響ぶりです。

◼ パロディ版も大ヒット―制作したのはNY在住の兄弟

そんなディズニーアニメーションの自立プリンセスキャラ「エルサ」にインスパイアされたNYU(ニューヨーク大学)の元学生や卒業生が中心となり、アニメ映画公開後すぐにミュージカル版ビデオが自主制作されました。クリエイターは、YouTubeチャンネル『AVByte』を運営するナザレ兄弟。クラシック音楽のミュージシャンを両親にもち、幼い頃から音楽に傾倒してきたドイツ出身の作曲家、アントニウス・ナザレ (現21)さんは、なんと13歳で大学に入学し音楽を専攻したという、ドイツ史上最年少の学士号取得者です。その後、17歳でニューヨークに来たのですが、せっかく入学したNYUを、1学期だけで中退し、フィルム・メーカーである兄のヴィージェーと共に、YouTubeチャンネル制作をはじめることにしたのです。YouTubeビデオ投稿者としてのキャリアは、生計を立てるための仕事として決して一般的とは言えませんが、彼らにとってそれは問題ではなかったようです。AVByteは視聴者向けに「ビデオ1作につき1口$1から出資できるパトロン」という少しユニ—クなクラウドファンディングもはじめています。

◼ フェミニスト・コミュニティーでは議論が白熱「アナと雪の女王」

ウォルト・ディズニーは右翼的で、差別的、男尊女卑的な人物であったと言われています。「好きな男性と結婚できれば幸せ」という、ウォルト・ディズニーが考えた理想の女性像から一転して、「王子様は必要ないわ」「ありのままの自分で」と唄う劇中のもう一人のヒロイン、エリサのキャラの登場は(当然ながら)米国のフェミニストからも注目を集めました。けれどもその反面、映画ボイコット・批判派にまわるフェミニストも続出して、ソーシャルメディアやウェブ上での議論が白熱することになりました。(以下、乱暴に引用)「これまでの作品と比べて、ディズニーの中でそれほど際立った作品とは言えない」 「フェミニズムという言葉を、この程度の内容に使うべきではない」 「一見フェミニストメッセージに見えるが、それはうわべだけ。真のメッセージはフェミニズムとはほど遠い」 「またもやディズニー、登場人物が白人だらけ」などの声が飛び交いました。しかし、私から見るとどの批判も、だからって「この作品をボイコットすべし」というまでの説得力があるとは思えません。幸か不幸か、「フェミニスト」という言葉で色づけされてしまったヒット作への、ガチ・フェミの方たちからのせめてもの反撃のように映りました。しかしこういうアツい議論が出現する裏には、彼女たちのフェミニズム社会運動への真剣なまなざしが存在しています。

◼ 最後にマーティンから

ー「王子様、お願い!早く私をここから連れ去って」ー このような夢を与えてくれるおとぎ話の数々は、多くの女の子のハートを虜にします。私をここから救い出せるのは「プリンス・チャーミング」だけ!本気でそう信じていました...「結局、女は"売れて"なんぼよ。」(いったい私は何度このフレーズを聞いたことでしょうか)当時のお嬢様学校でのちょっとした憧れは、短大を卒業して海外の花嫁学校(フィニッシングスクール)にいくことだったり、素晴らしい条件のお見合いにこぎ着けることだったり、あるいはスチュワーデスになること等、「幸せな結婚=人生のゴール」だと考えることが出来るようにインプットされていたような気がします。どんなに激しく反抗しようとも、少なからずその時はクラシック・ディズニーアニメに見られるジェンダー観を、私は共有していたわけです。

当時の私がもし、この「エルサ」のようなモダンな自立キャラプリンセスや、”I am who I am, I don’t need a man.” なんて唄うディズニープリンセスたちがこぞって出演するYouTubeビデオに出会っていたら、「プリンス・チャーミング」な殿方たちに振り回される期間も最小限にすんだのではないか、今ここにある人生も変わっていたのではないか、と考えずにはいられません。女の子の持つべき、憧れるべき「夢」として多大な影響力を持つアニメーションの世界。その時代の「理想の女性像」を追い求める戦いとして、今後登場するディズニープリンセスたちにも強く、かっこ良く、ありのままであってほしいものです。(マーティン・チエ)

(参考)