個人情報を収集し世界をコントロールする隠れた闘い ~ブルース・シュナイアー

2015/3/13(Fri)
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16分

エドワード・スノーデンの暴露により、米国政府が行っている大規模なオンライン上の個人情報の収集及び監視の実態は明らかになりましたが、企業による同様の行為はあまり知られていません。今回は、『データとゴリアテ』(副題:あなたの情報を集め、あなたをコントロールするための隠れた闘い)の著者で個人情報保護の専門家であるブルース・シュナイアーに聞きます。

シュナイアーは著書で、政府だけでなく企業がどのように監視システムを築き、個人情報を集め利用しているかを明らかにしています。政府が犯罪防止や対テロ対策など私たちの安全を守ること根拠に個人情報の収集・監視を正当化するのに対し、企業は便利で手頃な価格のサービスと引き換えに個人情報を集めます。例えば、携帯式の情報端末や、Facebook、Gmailなどのサービスが挙げられますが、実はこれらは私たちの個人情報と引き換えに提供されているものです。シュナイアーは、多くの人たちがこの事実にあまり自覚的でないことに警鐘を鳴らしています。なぜなら、集められた情報は企業と政府の間でやり取りされ、そうして出来上がった膨大なデータベースが私たち一人ひとりの生活のあり方をコントロールしうるような形で使われているからです。この膨大なデータベースを分析するのは、人ではなくコンピューターです。コンピューターのアルゴリズムによって、私たち一人ひとりがどのような考え方、好みの人間かが判定され、それによって私たちに提供されるサービスが一方的に決められていきます。問題なのは、こうした一連の行為が当事者である私たちが知らないところで、また、もし知ることができたとしても介入できない形で行われていることです。

これは重大なプライバシーつまり基本的人権の侵害であるとシュナイアーは指摘します。個人情報の問題に関する議論において、「やましいことがなければ見られても問題ないのではないか」という趣旨の主張がしばしば聞かれます。しかし、プライバシーとはやましいことを隠すこと、あるいは犯罪者のみに認められるものではありません。プライバシーとは、自らの生き方を権力や社会から干渉されることなく自由に決めることができる権利、つまり自己決定権であるとシュナイアーは言います。そして、現代の「監視社会」においては、私たち個々人の自己決定権が脅かされていると警告します。

私たちは、このような「監視社会」を今後もただ為す術なく生きていくしかないのでしょうか?シュナイアーは、今ある便利さを享受しながらもセキュリティーとプライバシーがきちんと尊重される社会の実現は可能であると言います。そのためには、政府や企業が現在行っているようなプライバシーの侵害行為を止めさせる、または厳しく制限するような法整備を急ぐことです。私たち一人ひとりが声を上げて、この問題が重要で差し迫った政治的・社会的課題であることを広くそして強く訴え、政治家を動かすことが必要です。

シュナイアーは、著書の中で個人情報が濫用される現代を環境問題が表面化する前の産業革命初期に例え、私たちが今行動をおこすことの重要性を訴えます。産業革命の初期には、工業化を優先し、排出される汚染物質の対応を後回しにした結果、蓄積していった汚染物質により後の世代がより深刻な環境問題に直面しました。情報化が絶えず進む現代も、日々作り出される個人情報の扱い方を今のうちに適切に決めておかないと、私たちの後の世代がより困難なプライバシーの問題を抱えることになるかもしれません。(千野奈保子)

☆ このインタビューの第2部もネット公開されています

*ブルース・シュナイアー (Bruce Schneier) 世界的に有名なセキュリティ専門家で、多数のベストセラーがある。ハーバード・ロースクーrの Berkman Center for Internet and Society のフェローで、Resilient Systems, Inc.の最高技術責任者(CTO)

Credits: 

字幕翻訳:朝日カルチャーセンター横浜 字幕講座チーム
千野菜保子・仲山さくら・水谷香恵・山下仁美・山田奈津美・山根明子・渡邊美奈
全体監修:中野真紀子