マッチョな男像が横行する米国のゲーム界 女性蔑視への批判は命がけ

2014/10/20(Mon)
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グローバル市場で年間百億ドル近い収益をあげるビデオゲーム業界。ヒット商品として脚光を浴びるのはバイオレンスあふれるゲームの数々です。実際には米国でゲームを楽しむ人々の4割以上が女性であるにもかかわらず、ゲーム業界は男の世界と位置づけられ、女性のゲームデベロッパーは3割に達しません。メディア批評家アニタ・サーキージアンは、米国の人気ゲームに登場する女性像を分析し、その多くがゲームの本筋に無関係な端役というだけでなく、ゲーマーの興奮をあおるためにレイプや殺しの対象として使われているという実態を指摘しました。

ローリングストーン誌から「ポップカルチャーの最も価値ある批評家」と絶賛されたサーキージアンですが、2012年にゲームにおける女性の性的搾取を批評するビデオシリーズを企画した途端に、「ゲ-ムの楽しみをぶちこわしにされた」とレイプや殺害を予告する脅迫の的になりました。バイオレンスの性質や形態は違っても、ポップカルチャーで女性が商品化され性的搾取の対象とされているのは(そしてそれはまた、もちろん「男性」性を商品化する試みの一環でもあるのですが)、ほかの国、たとえば日本でも同様です。しかし、米国やカナダで恐ろしいのは、フェミニストへのハラスメントがネット上のヘイトにとどまらず、殺人につながった実例がいくつもあることです。サーキージアンは、脅迫に対する適切な安全対策がとられなかったため、ユタ州立大学での講演をキャンセルせざるを得ませんでした。

また、身体に危害をくわえる暴力事件に発展しなくとも、米国のゲーム界では、フェミニストへのネット上のハラスメントにもすさまじいものがあるとサーキージアンは言います。フェミニスト的視点をもつゲーム批評家や女性ゲームデベロッパーをつぶそうと、脅迫的な攻撃のことばを浴びせるにとどまらず、私生活にまつわる根も葉もない中傷を広めゲーム界からの追い出しを図るというのです。攻撃に参加するのは男性ゲーマーにとどまりません。ゲームジャーナリストたちも業界に棹差す動きをつぶそうと、血道をあげているとサーキージアンは指摘します。

しかし、ウィキぺディアには、こんなエピソードも載っています。2012年、前述のビデオシリーズをたちあげる資金としてオンラインで6000ドルの寄付を募った時、サーキージアンはオンラインハラスメント・キャンペーンの標的になりました。ところが、そのような動きに怒った人々が応援してくれたため16万ドルもの寄付が集まり、その後のプロジェクトを支えたと言うのです。

たかがゲームという人もいるでしょうが、こういったポップカルチャーの中にこそ、無反省に抱え込まれた社会のひずみが温存されている可能性があります。たとえ嫌われ者になっても、批判的分析の試みは重要ですし、それを支える人たちがいることも、頼もしい限りです。(大竹秀子)

*アニタ・サーキージアン(Anita Sarkeesian):メディア批評家。ポップカルチャーが描く女性像を分析するビデオウェブ・シリーズFeminist Frequency(フェミニスト・フリークエンシー)のエグゼクティブ・ディレクター

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字幕翻訳:小田原 琳/ 校正:大竹秀子/全体監修:桜井まり子