デトロイト市の財政破綻「緊急財政管理官」による再建の中身

2013/7/23(Tue)
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アメリカの自動車産業を象徴する大都市とされてきたミシガン州のデトロイト市が連邦破産法の適用を申請しました。米地方自治体の財政破綻としては過去最大です。かつて米国第4位の都市だったデトロイトですが、1950年に180万人いた人口が、現在では68万5000人と、半分以下に減少しています。その背景には、犯罪の増加や、郊外への人口流出、自動車産業の空洞化による都市基盤の浸食がありました。

人口の減少により、この10年間だけでも市の所得税からの収入は3分の1減少しました。市のサービスが麻痺し、暮らしの安全や便利が心もとなくなると不動産価格はがた落ちです。もっていても売れない家に税金だけ払うのはやりきれないとして見捨てられた家は市に没収されたまま朽ちていくばかり。固定資産税からの歳入を大幅に減らすと共に治安をますます悪化させました。管理のいき届かない市の公園は荒れ放題となり、雑草が空き地をおおい、デトロイト市内はかつての草ぼうぼうの大平原(プレイリー)に逆戻りするとさえ言われました。いまでは、街灯でちゃんと機能し ているのはわずか4割。稼働している救急車は3分の1。警察に事件を通報しても警官が現場にやってくるのに平均58分もかかるという、さんざんな都市になってしまいました。

市内の産業が空洞化するにしたがい、まずは白人層、次に黒人のミドルクラス層が逃げ出していきました。デトロイト市には「8マイル」と呼ばれる有名な通りがあります。市とそのすぐ北にあたる郊外のオークランド郡の境に位置する通りで、デトロイト出身のラッパー、エミネムの半自伝的映画のタイトルにもなりました。8マイルは、ふたつのまったく別個の世界の境界線で、オークランド郡の住民の多くにとっては、「あっち側は地獄。こわいから行くな」というボーダーラインでも あり、エミネムのような若者には「ほんもののワイルドなヒップホップ黒人文化が生きている地」でもあるわけです。ともあれ、オークランド郡は米国で4番目にお金持ちの郡と言われており、逃げ出したお金持ちやミドルクラスの郊外と貧しい市とがデトロイト都市圏の中で並存している状態です。

今回の破産のニュースで気付くのは、デトロイト市長の名が報道にほとんど登場しないことです。仕切っているのはデトロイト市長ではなく、ミシガン州知事のリック・スナイダー氏です。共和党のスナイダー氏は2013年3月、デトロイト市の財政運営を州が引き受けると発表し、財政再建に取り組む非常事態管理者を任命しました。非常事態管理者は住民の反対を押し切って共和党のスナイダー知事が強力に導入した制度で、選挙で選ばれた市長や市議を超えた権限をもちます。 デトロイト市では、この非常事態管理者のもと180億ドルに及ぶとみられる大規模な負債を処理していくことになりますが、失敗しても成功しても選挙による民意の評価を受けることはなく、任期の終了とともに去っていくだけです。破産により、痛みを負わされるのは誰か?

破産報道とともに年金が債務の多くを占めていることが報じられ、じゃ、当然、切らなきゃとする報道が目立ちます。でもこの年金は組合員が地道に貯めてきた積立金に基づく適切な額の支払いであり、組合が組織力を使って法外な額の支払いをごり押ししようとしているわけではありません。人口の減少により市の職員の数も減り、現役の1人の職員が支払う積立金で退職した職員3人を支えねばならないという困った状況になってしまっただけです。一方で市には、総工費4億4400万ドルと言われるアイスホッケー場建設の計画もあります。年金は切らなくちゃという姿勢の非常事態管理者ですが、アイスホッケー場にはおカネを出したいと言っています。スナイダー知事は、2011年 以来、非常事態管理者の法案のほかにも組合つぶしの法案も通しており、ネオリベ路線を推進しているのは明らかです。市の所得税に上限をつけるかわりに州が 市を経済的に支援すると約束していましたが、企業への減税をおこなったため資金が足りなくなったとして市への経済的支援にはほんのわずかな額しか渡してい ません。

一方、再開発が進むのなら、いまのうち買っておけばと、これから生まれるかもしれない新たな住民たちに向けて安い物件を買う業者がすでにどしどし入ってきています。人口の8割以上が黒人になったデトロイト市では2012年の大統領選で投票者の98%がオバマに票を入れ、共和党のロムニー候補への投票はわずか2% だったと言われます。人種とクラスで分断された地域で、スナイダー知事が相手にしているのは、いまいる市民ではなく、新たにやってくる人たちです。誰の意向をいかし、誰に受ける政治を行おうとしているのかは、明らかです。痛みわけといいながら、「お荷物」に痛みを押しつける政策。そんな政策の前では、民主主義は邪魔ものにすぎません。(大竹秀子)

*マーク・ビネリ(Mark Binelli): Detroit City Is the Place to Be: The Afterlife of an American Metropolis (『憧れの街デトロイト─米国大都市の死』)の著者

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字幕翻訳:川上奈緒子 校正:斉木裕明