メルトダウンの危機

2011/3/17(Thu)
Video No.: 
1
14分
福島第一原子力発電所の事故に関しては、被害の範囲をできるだけ小さく見せようとする報道がめだち、海外メディアの報道とは大きなずれを生じています。いちばん情報を持っているはずの政府と東京電力が発表することが信用されなくなれば、パニックがますます拡大します。責任問題は後日かならず追及されるべきですが、今はとにかく情報を隠さないでほしい。

この日の放送で語られている危機は、3月17日の段階で得られた情報にもとづくものです。その後の展開で、若干の修正は出てきたようですが、基本的な指摘に変わりはありません。

1)使用済み燃料プールに入っている大量の放射性物質がむき出しになる危険がある、

2)第4号炉の使用済み燃料プールには、点検作業のために原子炉から抜かれた「使用済みでない」燃料棒が入っており、冷却水がなくなれば格納容器の外でメルトダウンを起こす可能性がある(*番組の中では4~6号機と言っていますが、後の発表で5、6号機の燃料棒は原子炉に戻されていることがわかりました)、

3)第3号機には、高い放射性有毒性を持つプルトニウムを使用したMOX燃料(プルトニウム・ウラン混合燃料)が使われている(いわゆるプルサーマルです)

4)福島第一原発の6基の原子炉は、日本独自の改良は加えられているものの、基本的には米国のジェネラル・エレクトリック社の設計によるマーク1型です。この旧式の原子炉は1970年代から欠陥が指摘されていました。1971年、原子力委員会のスティーブン・ハヌア博士は、この圧力制御方式を使った原子炉の認可を取りやめるよう政府に勧告すべきだとのメモを提出しましたが、委員会に握りつぶされたそうです。それ以降、このタイプの原子炉が米国で23基も認可され、今も稼動しています。

原子炉格納容器が破損すればどれほどの規模の被害が起こるかについて、80年代に米国政府が行った推計をガンター教授が紹介しています。米国の原子力規制委員会が、上院のエネルギー環境小委員会で公式答弁したものですが、1985年の予想では米国にある約100基の原発で炉心溶融を伴う大事故が20年以内に起こる可能性は、なんと50%とされていたそうです。これほど高い確率で大事故が起こると予想していながら、原子力発電事業を進めてきた米国政府、それをそっくり受け継いで原発事業を国策として推し進めてきた日本政府。ここには経済的な合理性などとは無縁の力学が働いていることがわかります。(中野)

参考サイト:
・原子力資料情報室(CNIC)東日本巨大地震の発生以降、毎日記者会見を行い詳細な分析を発信し続けています。こちらにまとめのページ

・脱原発の日実行委員会:原子力発電に関する基本的な資料

・岩上安身さん:元福島県知事、佐藤栄左久さんへのインタビュー (冤罪のにおいぷんぷんで逮捕された佐藤知事の証言から、地元の反対を無視して強引に進められる国策としての原発推進の実態がよくわかります)

・追加 NHK現代スクープ・ドキュメント原発導入のシナリオ 〜冷戦下の対日原子力戦略〜 (1994年放送) (これが原子力平和利用の正体。原子力アレルギーの日本に原発が導入された背景には冷戦構造と読売グループによる世論形成が)

・追加: 小出裕章さん『隠される原子力』
(小出裕章:京都大学 原子炉実験所)

・追加: 山内正敏放射能漏れに対する個人対策(改版)

・追加:チェルノブイリ「百万人の犠牲者」 1986年のチェルノブイリ原発事故による死者は膨大な数に上るという調査結果を発表したジャネット・シェルマン(Janette Sherman)氏にカール・グロスマンがインタビュー(字幕つき 30分、必見)

*カール・グロスマン(Karl Grossman)ニューヨーク州立大学オールドウェストベリー校ジャーナリズム学教授。原子力発電産業に関する著作多数。
*ポール・ガンター(Paul Gunter) 原子力監視団体Beyond Nuclearの原子炉監視プロジェクトの責任者。反原子力団体クラムシェル同盟の共同設立者
*ダイアン・ダリゴ(Diane D’Arrigo)原子力情報資料サービス(Nuclear Information and Resource Service)のメンバー

Credits: 
翻訳:中野真紀子/校正:桜井まり子・大竹秀子