FRBの6000億ドルの追加金融緩和は通貨戦争の懸念を煽る

2010/11/5(Fri)
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このところまた円高が進んでいます。円高のたびに国内産業の危機が叫ばれ、日本政府はバカの一つ覚えのように市場介入を行い、ため込むしか能のない米国債をますます増やしています。なんとも馬鹿らしいはなしですが、世界全体で見れば「通貨切り下げ競争」にふたたび火がついた格好です。かつては通貨切り下げ競争のような他国経済を犠牲にするやり方が第二次世界大戦につながったと言われています。ぶっそうな話ですが、マイケル・ハドソンによれば、いまや金融が戦争の新形態なのです。

通貨切り下げ競争の発端は、米国連邦準備銀行(FRB)が6千億ドルの資金供給と史上最低金利の据え置きという「量的緩和」に踏み切ったことでした。共和党が多数の議会では大規模な財政支出による景気対策が打てないため、代わりに連銀が動いて金融業界を救済したのです。「銀行に資金を回せば貸出しが増え、不動産市況が回復し、銀行の含み損が減る」という理屈でしたが、ジャンク債や詐欺ローンにまみれた住宅市場をひきずったままではどんなにドル供給を拡大しても国内経済に資金は流れず、増刷したドルはもっと条件のよい海外の新興経済に流れます。

これが世界中の経済に大混乱を招き、為替レートの引き下げ競争を引き起こしていることは、経済学者のスティグリッツも指摘しています。他国を犠牲にして自国経済の回復を図る大恐慌時代の政策と同じで、昔は関税を引き上げましたが今は為替レートを引き下げます。政府の財政赤字をまかなうために紙幣を増刷することは欧州憲法では違法であり、各国とも金利を上げて財政緊縮政策をとることを強いられています。そんなとき米国だけが逆に金利を下げて紙幣を増刷し、その資金で外国の資産を買いまくるわけですから、反発を買うのは必至です。中国やトルコやマレーシアなどではドルを外して直接に貿易決済をする動きも出てきます。ドルが基軸通貨から引き摺り下ろされれば、米国を中心とした自由貿易体制の終わりです。

それもこれも、すべては金融業界の詐欺行為をかくすためです。FRBはジャンク債や詐欺ローンで破綻した債券を支えようとして国内労働者の競争力を奪い、経済回復を不可能にしているとハドソンは指摘します。犠牲になるのは他国経済ばかりではありません。国内経済も犠牲にして銀行を救済しているのです。(中野真紀子)

マイケル・ハドソン(Michael Hudson) 長期経済トレンド研究所の所長、カンサスシティのミズーリ大学教授。著書はSuper Imperialism: The Economic Strategy of American Empire(『超帝国主義:アメリカ帝国の経済戦略』)
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字幕翻訳:中野真紀子/Webページ作成:付天斉