「ギリシャの民衆は欧州全体のために闘っている」タリク・アリ
ギリシャの債務危機がユーロ圏に拡大するのを防ぐため、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)は救済措置に合意し、1兆ドル近い予算を組みました。これを歓迎して世界の株式市場は上昇しましたが、IMFとEUの融資はギリシャが財政緊縮作を取ることが条件です。ギリシャ政府は年金制度の大幅見直しを決定しましたが、国内の2大労組が反発し、5月第2週には10万人がデモに参加し、24時間のゼネストが決行されました。
金融業界は温存し、労働者や国民大衆だけを犠牲にした経済の立て直しをはかるリストラ政策は不当なものですが、不当なだけなく経済的な合理性もないと経済政策研究所のマーク・ワイスブロットは主張します。緊縮政策はギリシャ経済をさらに悪化させるからです。しかも、意図的に悪化させるのです。
ギリシャの通貨はユーロです。一国の経済事情に合わせてレートや金利を変えることはできません。では為替レートを変えずにギリシャ経済が国際競争力をつけるには、どうするか?国内で大量の失業者を作り出し、それによって賃金と価格の水準を押し下げれば、国際競争力は上がるというのがインターナル・デバリュエーションの理論です。こうして競争力を蓄えて、いずれ欧州全体の景気が回復すれば、その恩恵にいち早くあずかれるという筋書きです。でも欧州経済に回復の兆しはないし、むしろ国内の景気悪化で債務がさらに増えるのがおちです。
かつてこの手法を採用したバルト諸国は、経済が大幅に縮小し、いまだに回復のめどもたっていません。ギリシャの債務危機の飛び火が懸念されるスペインやポルトガルやアイルランドやイタリアでも緊縮政策が取られ、不景気がさらに悪化しています。米国だって同じような債務危機を抱えているのですが、他の国には緊縮政策をすすめておきながら、自国では景気刺激策をとっています。ギリシャだって同じように景気刺激による経済拡大で不況脱出ができるはず。そのためにはユーロを離脱し、債務返済の交渉をするべきだとワイスブロットは言います。 (中野)
*タリク・アリ(Tariq Ali)イギリスで活躍するパキスタン出身の作家、政治評論家。政治評論や歴史の分野で20冊以上の著書があり、小説や戯曲や映画脚本なども手がけている。『ニューレフトレビュー』の編集者の一人。最新の小説Night of the Golden Butterflyはイスラム4部作の最終作。
*マーク・ワイスブロット(Mark Weisbrot) 経済政策調査研究所の共同責任者。ロンドンのガーディアン紙にギリシャの状況について寄稿した。近刊書はThe European Union’s Dangerous Game(『欧州共同体の危険なゲーム』)
全体構成:中野真紀子