タリク・アリ パキスタン民衆の勝利を語り、「社会主義の再考」を促す
英国の作家タリク・アリがゲストです。まず今回の金融危機に関連して、今こそ社会主義を見直すべきだとの主張を展開します。米国では国有化といえばとにかく悪いことだという偏見があり、国民皆保険制による無償医療を提案すれば「それは社会主義だ」と一蹴される。社会主義をタブー視する米国の習慣はそろそろ改めるべきではないのか。米国の活動家たちが見習うべき手本は、南米の大衆運動にあるとアリは言います。
さて本題は、パキスタン情勢です。パキスタンでは3月に政府が市民の激しい抗議運動に屈して、ムシャラフ元大統領の時代に解任された最高裁判所主任判事イフティカル・チョードリーを復職させました。チョードリ判事は司法の独立を貫き、法律を条文どおりに実行する数少ない判事として民衆の絶大な支持を受けています。判事の復権は民衆の勝利であると、アリは高く評価します。
そうした国民の祝賀ムードに水をかけるように、米国はパキスタンへの越境攻撃を行い、民間人9人が犠牲になりました。オバマ政権はアフガニスタン占領を強化するためと称してパキスタン北西部を爆撃しています。これは米国の手先とみなされているザルダリ現大統領の立場を危うくし、パキスタン軍も動揺させます。これによってパキスタンが不安定化すれば、インドを含めた南アジア全体に影響が波及するきわめて危険なゲームだとアリは警告します。
米国はパキスタンがテロの温床だという考えで凝り固まっていますが、パキスタンの民衆にとって問題なのは栄養不足、失業の増加、教育と医療、そして民主化の要求です。このような動きに目を向けようともせず、ひたすらテロリストの追撃をはかるオバマ政権の政策は理解しがたいとアリは酷評します。(中野)
タリク・アリ(Tariq Ali)英国で活躍するパキスタン出身の作家、活動家。ニューレフトレビュー編集員。The Duel: Pakistan on the Flight Path of American Power(『対決:米国覇権の経由地パキスタン』)など著書多数。
字幕翻訳:田中泉/校正:桜井まり子
全体監修:中野真紀子・高田絵里