木っ端みじん デジタル化で吹っ飛ぶ あなたの暮らし、自由と幸福
わたしたちの日常生活の一部となっている電子メールやデジカメ、音楽ダウンロード、携帯電話、カードショッピング。これらの行為はすべてデジタル情報を生みます。私たちが残す「デジタルの足跡」は記録され、コピーされ、転送され、検索され、売り飛ばされ、永久に保存されます。無限に拡大する高度な情報のネットワークが行き着く先は、新たな形の協力と革新の可能性に満ちたユートピアか、ジョージ・オーウェルが『1984年』に描いた個人情報や表現の自由が奪われ民主主義が死滅するディストピアなのか?
ハーバード大学のハリー・ルイス教授が懸念するのは、私たちが、速さや便利さ、わずかな割引と引き換えに、やすやすと個人情報の引渡しに応じる現実です。レジでショッピング・カードを提示して数十セント値引きしてもらうのと引き換えに、それと知らずに引き渡している個人情報には医薬品や酒類をはじめ何を購入したかの履歴が蓄積されます。
個人情報の保護はデジタル化の時代の大きな課題ですが、その一方で、個人情報保護の法律が常に意図された効果ばかりを生むとは限りません。情報取得の阻止が逆に不利益をもたらす例もあります。例えば個人の医療データの保護により、かつて大きな成果をもたらしたような大規模な病例の調査研究は実施不可能になっています。
とはいえ、すべての電子メールの情報が消去後もサーバーに残り、気づかぬうちに姿を撮影され、分析される社会。検索エンジンの利用を通じてグーグルが政府よりずっと先に社会の出来事を察知するという現実は、あまり気持ちのよいものではありません。(中野)
ハリー・ルイス(Harry Lew) ハーバード大学のコンピューター・サイエンス教授。元ハーバードカレッジ学部長。最近の共著はBlown to Bits: Your Life, Liberty, and Happiness After the Digital Explosion(『こっぱみじん 爆発的なデジタル情報に吹き飛ばされるあなたの暮らし、自由と幸福』)。
字幕翻訳:桜井まり子/校正・全体監修:中野真紀子・高田絵里