ハワード・ジン講演「戦争と社会正義」
ハワード・ジンは、米国で最も高名な歴史家の1人です。彼の古典的名著『民衆のアメリカ史』は、米国人の歴史観を大きく変えました。初版が出たのは四半世紀前のことですが、その後の総販売部数は百万部を超え、しかも毎年、販売部数が前年を上回るという、業界でも驚異の記録を打ち立てています。
ハワード・ジンは第2次世界大戦で空軍に入隊し、爆撃手をつとめましたが、その体験から生涯にわたる反体制活動家、平和活動家になりました。40年以上にわたり、公民権運動や社会正義を求めるさまざまな市民運動に積極的に参加してきました。
ジンが最初に教鞭をとったのはアトランタのスペルマン大学でした。この大学は、もとはアフリカ系アメリカ人の女子の高等教育のために設立された学校でした。米国ではかつて、公立学校における人種隔離が普通に行われていましたが、そういう時代に黒人のための高等教育機関として創設された100余りの大学やカレッジのひとつであり、女子高等教育のための最初のものがスペルマン大学です。この番組にも登場したアリス・ウォーカーやマリアン・ライト・エーデルマンなど優秀な人材を排出しています。
公民権運動が盛り上がりを見せた最中に若い教師として赴任した彼は、体制に反抗する女子学生たちの側に立って大学当局を批判し、ついには解雇されてしまいます。それでも、このときの体験が自分を大きく変えたと述べるジンは、その後2005年に同大学の卒業式に招かれ、祝辞を述べる形で名誉を回復されました。現在はボストン大学の名誉教授です。
2008年11月4日の大統領選挙の数日後、ハワード・ジンがニューヨーク北部のビンガムトン大学で行った「戦争と社会正義」という講演をお届けします。アサヒニュースターでの放送でも、かなり反響があったので、予定を繰り上げて掲載しました。(中野)
*ハワード・ジン(Howard Zinn) ボストン大学名誉教授。アメリカで最も読まれている歴史学者。彼の古典的名著『民衆のアメリカ史』は150万部を売り、アメリカの歴史教育を変えたといわれる。
字幕翻訳:桜井まり子/校正・全体監修:中野真紀子